平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

漂泊旦那の日記です。本の感想とサイト更新情報が中心です。偶に雑談など。

D・M・ディヴァイン『三本の緑の小壜』(創元推理文庫)

 夏休み直前、友人たちと遊びに出かけた少女ジャニスは帰ってこなかった――。その後、ジャニスはゴルフ場で全裸死体となって発見される。有力容疑者として町の診療所に勤める若い医師ケンダルが浮上したものの、崖から転落死。犯行を苦にした自殺とされたが、やがて第二の少女殺人事件が起こる。犠牲者はやはり13歳の少女。危険だとわかっていたはずなのに、なぜ殺人者の歯牙にかかってしまったのか? 真犯人への手掛かりは、思いもよらぬところに潜んでいた……。英国本格の名手が遺した、後期の逸品。(粗筋紹介より引用)
 1972年、発表。2011年、創元推理文庫より邦訳刊行。

 英国本格ミステリの名手、ディヴァインの11作目となる後期の作品。診療所の秘書受付であるマンディ、腹違いの妹であるシーリア、診療所の医師であるマークの3人による視点で交互に物語が語られていく。
 小さな町で起こる連続殺人事件なのだが、警察の動きがあまり見られない。少女が続けて殺される割には町全体があまり大騒ぎになっているように見えないのも不思議。ただ、背景は丁寧に書かれているし、描写はうまいので、読んでいてそれほどの不満は感じない。自分に自信を持っていないマンディ、嫌われ者であるシーリア、兄が殺された真相を追い続ける万ディという三者三様の描写と台詞回しが非常に巧い。被害者によるプロローグの独白も含め、伏線の張り方もさすがと思わせる。
 ただ最後に明かされる犯人は肩透かし。特に動機が今一つ。それまでの丁寧な書き方に比べると、終わり方があまりにもあっさりめ。物足りない終わり方だったのは残念であった。
 中期の作品と比べると、円熟味は増したが、ロジックの面白さは薄れた印象をもった。十分に読める作品ではあったが。