平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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ダン・マクドーマン『ポケミス読者よ信ずるなかれ』(ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

 私立探偵のマカニスは、とある人物から招待されて、人里離れた会員制狩猟クラブを訪れた。会員たちがクラブの存続問題などで揉めるなか、湖で一つの死体が発見される。さらに、嵐によってクラブは陸の孤島となり……。名探偵、密室、クローズドサークル、連続殺人、古今東西のミステリへの言及――。すべては本格ミステリの舞台として完璧かと思われた。しかし、夢想だにしない展開の末に読者を待ち受けるものは、困惑か狂気か。これはミステリなのか、それとも。ポケミス読者よ、信ずるなかれ――。(粗筋紹介より引用)
 2023年10月、刊行。2024年4月、邦訳刊行。

 作者は1975年生まれ。コロンビア大学卒業。TVプロデューサー。本作は作者のデビュー作。
 地雷臭しかしないこのタイトルは当然日本読者向けのもので、多分早川書房の誰かが考えたのだろう。これ、文庫になったらタイトル変わるのか? などとどうでもいいことを読む前に考えてしまった。原題は"WEST HEART KILL"。「ウェスト・ハート」はこの作品の舞台であり、ニューヨーク州の人里離れた7000エーカー(28.3km2)の敷地である。時は1967年の独立記念日の頃。ここに佇むリゾートホテル風の50部屋ほどある三階建ての豪壮な建造物に、会員制狩猟クラブのメンバーのうちの数家族が集まっている。ある人物から依頼を受けたアダム・マカニスが訪れるのだが。
 こうやって書くと私立探偵主人公のハードボイルド小説っぽいし、連続殺人となると本格ミステリかと思わせるのだが、実際に読んでみると一癖も二癖も、いや癖だらけだ。作者がいきなり我々読者に語り掛けてくるわ、状況を説明してくれるわ。途中で過去のミステリに言及するし、マニアックなエピソードは出てくるし、だ。さらにこの作品には色々あるのだが、それはもう読んでもらった方がいいだろう。
 うーん、思いっきり偏見で書くけれど、ミステリ愛をこじらせたミステリクラブの若者が、酔っ払った勢いで書きあげたような、へんてこな物語である。もしくは、三大奇書新本格ミステリに毒された人物が、世界観を重力を捻じ曲げてこしらえた奇形の建造物というか。やりたい放題に様々な要素をぶち込んで、強引に接着させて完成させている。
 好きな人は高評価、呆れる人は低評価で、中間の支持層はごくわずかだろう。で、私は低評価の方。馬鹿馬鹿しい、もう勝手にやって、と言いたくなった。唯一の救いは、読み易いことぐらいか。これ一作で終わりだろうと思っていたら、すでに二作目の初稿を挙げているとのこと。さすがに次は手に取らない。