平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

漂泊旦那の日記です。本の感想とサイト更新情報が中心です。偶に雑談など。

『お笑いスター誕生!!』の世界を漂う

https://hyouhakudanna.bufsiz.jp/star.html
「お笑いスター誕生!!」新規情報を追加。松竹梅のリーダーだった松みのるさんが亡くなられたとのことです。お若いイメージがありましたが、考えてみれば島田紳助・松本竜介とほぼ同期デビューだったんですよね。ご冥福をお祈りいたします。

 

 1~2週間ほど、更新止まります。

[感想エリーザ・ホーフェン『暗黒の瞬間』(東京創元社)

 30年以上のキャリアに幕を引くことを決意した、ベルリンの刑事弁護士エーファ。凄腕で知られる彼女は、多くの忘れがたい事件を手がけてきた。11人が被告人となった裁判で1人だけ無実の者がおり、全員がそれは自分だと主張している。1人を救うため10人を無罪とすべきか。厄介だがよく議論される類の事件だと思われたが……。ひとつの証言、発見、弁護活動でその姿が一変する平凡な裁判、そして異常な裁判――。驚異の新人による、息を呑むような完璧なる連作短編ミステリ!(粗筋紹介より引用)
 2025年2月、ドイツで刊行。2026年2月、邦訳刊行。

 60代の刑事事件専門女性弁護士エーファ・ヘアベアゲンは、弁護士資格を返上する手紙を封筒に入れ、弁護士連合会に送った。「プロローグ」。
 2022年2月、エーファはホテルのビーチである新聞記事を読んだ。それは、昨年10月、大富豪の年金生活者ハンス・Kの自宅にアドリアン・Sが侵入したが、Kは猟銃で逃走しようとしたSを射殺した事件の裁判結果で、裁判官は正当防衛を認定し、無罪を言い渡したというものだった。エーファはそのハンスが、2年前に脱税容疑の弁護をして無罪を勝ち取ったハンス・クレーバッハと同一人物ではないかと気になった。「第1の事件 正当防衛」。
 2010年8月、フランクフルトへ出張していたトーマス・ヴェーバーは、小説家で妻のラリッサから切羽詰まったメッセージを受け取り、慌ててベルリンのツェーレンドルフ地区にある自宅に戻ってきた。家には放心した状態のラリッサと、ラリッサの兄であるクリストフの死体があった。ラリッサは、私が殴って殺したと告白した。トーマスは近所に住むエーファに電話をかけ、家に来たエーファに助言を求めた。「第2の事件 生かしておく」。
 ウガンダでのクーデターに失敗して逃亡し、3年後にドイツに入国したケネス・オケロは、2週間後に同じ難民収容施設に入れられたウガンダ出身の男性から、彼の村を襲って息子を誘拐した反乱軍のリーダーの一人だと告発された。ドイツ連邦検察庁は少年たちを連行して少年兵に育て、極度の暴力行為を強制した、人道に対する罪および戦争犯罪で起訴した。そして裁判所から国際弁護人に指定されたのはエーファだった。「第3の事件 少年兵」。
 ゼルマ・ホイアーはフィットネスジムで知り合った既婚者のパトリックと不倫関係になり、ゼルマは離婚したパトリックと道教するようになった。4歳の娘キーラは共同親権で、1週間おきに二人の家にやって来た。しかし我儘なキーラに手を焼くゼルマ。ある日、キーラが誤って大量の塩をプディングにかけて食べてしまい、ナトリウム中毒で死亡。ゼルマは傷害致死罪で起訴された。弁護人となったのはエーファだった。「第4の事件 塩」。
 〈処刑人46〉こと46歳のフランク・シャンツァーは、46歳のIT専門家トビアス・レンラーを殺害したとして起訴された。レンラーの最大の望みは、死んで、誰か別の人間に食べられることだった。そしてその提案に応えたのがシャンツァーだった。警察の行動が早く、遺体のほとんどは見つかったが、性器だけは見つからなかった。弁護に就いたエーファは、謀殺ではなく嘱託殺人を訴えようとした。「第5の事件 人食い」。
 エーファが11歳のとき、近所に住む14歳のアンゲリカの母親イルムガルトが死亡した。夫である地方新聞記者のオットー・マイアーの話では、ここ数か月酒を飲み過ぎるようになり、死んだ晩は酒を飲み過ぎて、家に帰る道がわからなくなったとのことだった。しかしイルムガルトが大酒を読んで酔っ払っている姿を見たことがなく、村の皆が疑い始めたため、マイアー家は村を去った。「第6の事件 遺稿」。
 1週間後に結婚するニコ・シュラーデバッハの独身さよならパーティーが催され、同じTシャツに髪を紫色に染めた11人の男たちが集まった。最終目的地であるクラブで酔っ払ったメンバーの一人が、クラブにいた19歳のゾフィア・ガンカートを個室に連れこみ、全員で強姦した。ただし1人だけ先にクラブを出ており、彼はクラブの前にあるドネルケバブの店の前で吐いていた。店主はその事実を覚えていたが、それが11人のうちの誰かはわからなかった。そして捕まった11人は全員、自分が先に帰ったと訴えた。被害者の代理人となったエーファは、このままでは犯人を特定できず、全員が無罪になってしまうと伝えた。「第7の事件 強姦」。
 エーファに弁護を依頼したのは、大学病院の主任医師である外科医のルートヴィッヒ・フリートリクセン、57歳。母親エーディットを殺し、高価な装身具を盗んだ容疑だった。事情聴取でルードヴィッヒは、事情聴取で犯行を自白していた。しかし捜査記録を読んだエーファは、ルートヴィッヒの自白に疑問を抱く。「第8の事件 自白」。
 アイヒンガー医療技術株式会社に勤めるシュテファン・ハインリヒは、ロシアの保健省の役人に百万ユーロの賄賂を渡した容疑をかけられていた。見返りとして、会社はロシアに二千万ユーロを追える医療機器をモスクワに販売していた。ハインリヒはエーファに賄賂を渡したこと自体は認めたものの、それは会社が何年も行ってきたことだと訴えた。当然会社は認めておらず、罪が確定すれば即時回顧すると話していた。エーファは公判で、ハインリヒの無罪を主張する。「第9の事件 シュテファン・ハインリヒ」。
 エーファは過去の歳月のあらゆる暗黒の瞬間を思い起こす。「すべてよし」。

 作者のエリーザ・ホーフェンは1982年、ベルリン生まれ。現在はライブツィヒ大学法学部教授、ザクセン州憲法裁判所裁判官。共著で専門書や児童書などを発表しているが、小説家としては本書がデビュー作。そのせいかどうかはわからないが、前半、特に第1話は内容がわかりづらい。
 同じドイツの弁護士兼作家であるフェルディナント・フォン・シーラッハを思わせる連作短編集であるが、その内容は少し異なる。ここで描かれるのは、法律上の有罪・無罪、心情的な有罪・無罪、そして社会的な有罪・無罪のギャップである。エーファはその境界線上で葛藤し、ときには自身の正義のために法律の枠を踏み越えてしまう。9つの事件を通してエーファの苦悩を浮かび上がらせている点が、シーラッハ作品とは異なるところだ。
 意外にもミステリ要素が強く、事件の表層と意外な真相を少ない文字数で鮮やかに対比させる手腕はなかなかのものだ。連作ならではの仕掛けも用意されている。
 ドイツの警察や検察の意外な大雑把さはさておき、エーファが本当に敏腕弁護士なのか疑いたくなるほど察しが悪く、さらに弁護士倫理を破ってしまう場面には違和感を覚えた。そこがどうしても引っ掛かった点である。
 今年のベストを賑わせる話題作であることは間違いないが、個人的にはそこまで感心するほどではなかった。続編があるとのことなので、楽しみに待ってみようとは思う。

砥上裕將『一線の湖』(講談社)

一線の湖

 湖山賞をかけて千瑛と競った展覧会から2年――。大学3年生の霜介は進路に悩んでいた。次の一歩が踏み出せず、新たな表現も見つからない日々。そんな折、亡き母が勤めていた小学校から水墨画教室の依頼を受ける。子供たちの出会いを通じて向き合う自分の過去と未来。そして、師匠・篠田湖山から託された「あるもの」とは――。夢幻の色彩を映す水墨画を通して葛藤と成長を描く感動長編。(帯より引用)
 2023年12月、書下ろし刊行。

 大ヒットしたメフィスト賞受賞作『線は、僕を描く』の続編。前作から2年がたち、主人公の青山霜介は行き詰まっている。一方、篠田千瑛は「水墨画界の若き至宝」としてテレビや取材などに忙しい。西濱湖峰は藤堂翠山の孫、茜と結婚してすでに子供が生まれている。霜介の親友である古前巧と、同じゼミの川岸美嘉は今も付き合っている。
 2年も経てば当然スランプに陥ることもあるだろう。ということで、霜介の水墨画家としての未来、自身の進路などに苦悩し、そこからの再生が主眼となった作品。どういう風に再生させるのだろうと思ったら、霜介の母親が勤めていた小学校での水墨画教室というのは非常に巧い。子供たちの純粋な心は、絵に嘘をつかない。
 2年前に湖山会を脱けた斉藤湖栖の再生もうまく絡めているし、前作ではあまり描かれなかった霜介の母親についても触れられている。前作ではほとんど出てこなかった叔父も登場する。前作で心残りだった点について、過不足なく拾い上げているところも良かった。
 できれば続編、それも小学一年生の巴山(はやま)水帆を主人公にして描いてくれないかな。彼女の視点で描くことで、また違った水墨画の魅力が出てくるような気がする。

森バジル『探偵小石は戻らない』(小学館)

 名探偵のように事件を解決する日を夢見る、ミステリオタクの探偵・小石。色恋案件を病的に得意とする小石は、調査員の蓮杖と様々な調査に取り組んできた。しかしその日、蓮杖が目撃したのは探偵ではなく、犯人としての小石の姿で――。(帯より引用)
 WEB『STORY BOX』2026年8,9月号掲載。加筆修正のうえ、2026年9月、刊行。

 『探偵小石は恋しない』の続編。好評だった前作に続く物語であり、「ネタバレ厳禁」ではあるものの少しだけ触れると、物語は第21章から始まり、1行目からいきなり小石が犯人と指摘されている。そこから章ごとに巻き戻されていく構成だ。
 はっきり言えば、前作を読んでいることが前提で書かれている。事件の謎解き自体は登場人物表を参照しながら進めれば追えるかもしれないが、小石と蓮杖の性格や関係性、そして会話のやり取りは、前作を知らないと理解しづらいだろう。
 作者が「実験的な作品」と語る理由は、最後まで読んでも正直よくわからなかった。ただ、事件の大筋の真相は手掛かりがあからさまなので、だいたい予想が付く。おそらく1章から普通に書いていれば、犯人も動機も見え見えになってしまったのだと思う。もちろんそれだけが理由ではないのだろうし、恋愛小説としての仕掛けもあるのだろうが。
 この作品は、小石と蓮杖というキャラクターを楽しむための物語であり、作者が言う「恋愛」×「作品」という組合せのうち、「恋愛」の比重がかなり大きい。キャラクター小説としては十分楽しめたが、ミステリとしてはやや物足りない。
 多分続編が出るだろうから、次もキャラクター小説として楽しむことにしよう。

マルク・ラーベ『スズメバチ』(創元推理文庫)

 ロックスター、ブラッド・ギャロウェイのライブがベルリンで開催された。2万人以上の観客が熱狂するなか、女性がステージでブラッドに謎の封筒を手渡した。その中のアルミケースには、凝固した血の上に載せた白い羽根が入っていた……。翌日、警察のゲストハウスで、ブラッドの血だらけの死体が発見される。死体は損壊され、胸には黒いペンで“愛する者の命は大事か?”というメッセージが残されていた。刑事トム・バビロンは、臨床心理士のジータ・ヨハンスと共に捜査を始めるが……。トップスピードで駆け抜ける、ドイツミステリ4部作第3弾!(粗筋紹介より引用)
 2020年、発表。2026年6月、邦訳刊行。

 『17の鍵』『19号室』に続く〈刑事トム・バビロン〉シリーズ第3作。現在の事件と過去の事件が並列に描かれるパッターンは今回も踏襲している。
 2019年、ロックスターの殺人事件を追ううちに、被害者とトムとの意外な関係が明らかになり、トムは窮地に陥る。一方、1989年には、トムと妹ヴィオーラ(ヴィー)の両親であるヴェルナーとインゲ夫妻に危険が迫る。
 トムの捜査は、ブレーキ役のジータを振りほどいて暴走するが、ストーリーはそれ以上に激しく暴れ回る。それにしても、トムにはこれでもかと不幸が降りかかるし、家庭事情も「一体どんな星の下に生まれたんだ」と思うほど複雑だ。詳細は書けないが、トムとアンナの息子フィルまで引っ張り出される。
 1989年に崩壊したはずの東西ドイツの関係が、2019年になってもなお色濃く残っている点は本作でも同様である。国家や民族の分断が予想以上の傷跡を残すことを、改めて思い知らされる。もちろん、現実には小説以上の傷が至る所に存在するのだろう。このシリーズは、その痛ましさを突きつけてくる。
 『17の鍵』『19号室』以上に暴走するストーリーは、どこへ向かっているのかまったく分からないまま結末へ突き進む。タイトル「スズメバチ」の謎も含め、よくもまあこれだけ多方面に謎をばらまきながら回収できるものだと感心してしまう。この吹き飛ばされるような疾走感を味わえれば満足であり、辻褄が合っているかどうかはもはやどうでもいい(笑)。
 前作から1年以上空いての刊行。次作で完結するのだから、もう少し早く出版してほしいものだ。まだまだ謎が山ほど残っているのだから。

アンソニー・ホロヴィッツ『命取りのエピソード』(創元推理文庫)

 元刑事にして探偵のダニエル・ホーソーンが殺された──いや正確には、映画版『メインテーマは殺人』の撮影現場で、ホーソーンを演じていた俳優が殺された。イングランド南岸のヘイスティングズで発生したスター俳優の刺殺事件には、関係者のそれぞれに何かしらの動機があるらしい。だが、犯人が間違いを犯したということはないだろうか。すなわち、犯人が狙っていたのは、実は本物のホーソーンだったということは。ホーソーンが“ホーソーン”殺しの謎に挑む、〈ホーソーン&ホロヴィッツ〉シリーズ最新刊!(粗筋紹介より引用)
 2026年、刊行。2026年9月、邦訳刊行。

 〈ホーソーン&ホロヴィッツ〉シリーズ全12作の折り返し地点に到達した第6作目。映画でホーソーンを演じていた俳優が殺されるという展開だが、あまり楽しめなかった。それはなぜか。作中でワトソン役を務めるホロヴィッツが鬱陶しい。その一言に尽きる。
 ホーソーンのことなら何でも知りたい。ホーソーンの役に立っていると言わせたい。もうほとんどストーカー。最初はそういういびつな関係が面白かったけれど、ここまで来ると苛立ちしか覚えない。ホーソーンの過去の出し方も、勿体ぶりがひどすぎると思えてきた。
 事件の方もそれほど面白い謎があるわけではない。事件に絡む登場人物も好感度ゼロばかり。誰が殺されようが、知ったこっちゃないと思ってしまっては、もう楽しめない。
 シリーズがどうなるか気になるから読み続けるとは思うけれど、もうちょっと頑張ってくれないかな、作者。