ペストだ! その一言に、下宿屋の老夫婦は戦慄した。病に苦しむ下宿人の青年を囲んでいるのは、中世風の異様な衣裳に身を包んだ三人の医師。担架で患者を搬出すべく一行が狭い廊下に入ったとたん、肝心の患者が煙のように担架の上から消え失せた! 数刻後、巡回中の巡査が、またしても異様な姿の人物に遭遇する。言われるままに、路地に置かれたゴミ缶の蓋を取ると、そこにはなんと……だが奇怪きわまる一夜の事件も、実はさらなる怪事件の序章に過ぎなかったのだ。それはさすがのツイスト博士も苦汁を舐めさせられる難事件中の難事件だった。(粗筋紹介より引用)
1991年、発表。2008年8月、邦訳刊行。
ツイスト博士シリーズ長編6作目。冒頭の展開はほとんどマジックか、と突っ込みたくなるもの。こういうのはトリックを知ると興醒めしてしまうものだが、解決を読んでその通りだったことにはかえって笑ってしまった。
この後も事件は続くのだが、この作品の面白さは、第2部でハースト警部が仮説を挙げていくところ。本格ミステリは論理の物語であることを、十分に実践した作品であると言える。そういう意味では、楽しめたかな。舞台のチープさは別にして。
犯罪の世界を漂う
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「求刑無期懲役、判決有期懲役以下 2026年度」に1件追加。
青崎有吾『風ヶ丘五十円玉祭りの謎』(東京創元社)
相変わらず学校内に住んでいる裏染天馬のもとに持ち込まれる様々な謎。学食の食器をめぐる不思議な出来事、吹奏楽部内でのトラブル、お祭りの屋台のお釣りにまつわる謎ほかに、裏染の妹の華麗な謎解きを加えた、全五編+「おまけ」つきの痛快傑作連作集。
『体育館の殺人』『水族館の殺人』につづくシリーズ第三弾。なな、なんと、“平成のエラリー・クイーン”が、日常の謎に挑戦。(粗筋紹介より引用)
『ミステリーズ!』2013年に掲載の短編2本に、書下ろし4本を加え、2014年4月、刊行。
返却を忘れると食器持ち出しが禁止になるのに、返却口のすぐ近くで、しかも手つかずのトンカツを残したドンブリを置きっぱなしにしたのは誰か。「もう一色選べる丼」。
寝入神社で行われる夏祭りで、屋台の約半分がお釣りを五十円玉で返しているのはなぜか。「風ヶ丘五十円玉祭りの謎」。
針宮理恵子の彼氏である早乙女は吹奏楽部。十月にコンクールがあるので、クラリネットのメンバー内で目下練習中。王様ゲームで負けて休憩時間の飲み物をコンビニへ買出しに行った帰り、部室代わりの教室は鍵がかかっていた。それが何回も続くと何かあるのではないかと、理恵子は考えた。「針宮理恵子のサードインパクト」。
8月31日、午前授業の放課後、袴田柚乃と野南早苗は裏染天馬に連れ出され、新聞部部長向坂香織と演劇部部長梶原和也が待っている二年A組の教室で、なぜか抱き合えと命令された。「天使たちの残暑見舞い」。
私立緋天学園中等部の廊下に置いてあった花瓶が、わずかな時間の間に粉々になっていた。いったい犯人は誰か。目撃者の証言を元に、裏染天馬の妹、鏡華が推理する。「その花瓶にご注意を」。
健康ランドのサウナに入っていた少年は、後から来た中年の男を見て言い争いを始める。「おまけ 世界一居心地の悪いサウナ」。
裏染天馬シリーズを読むのは『水族館の殺人』以来なので10数年ぶり。なので登場人物がわからない、わからない。一応の説明はあるが、過去二作の長編の内容をまるっきり忘れているから、エピソードを語られても全然ピンと来ない。これは続けて読まないと駄目だったな。
日常の謎ではあるが、屁理屈に近い感じの謎解きが多く、推理という点ではそれほど楽しめなかった。どちらかというと、キャラ読みのシリーズだな、これ。
そういえば『図書館の殺人』もまだ読んでいない。多分どこかにあるので、気が向いたら探してみよう。
『お笑いスター誕生!!』の世界を漂う
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「お笑いスター誕生!!」新規情報を追加。松竹梅のリーダーだった松みのるさんが亡くなられたとのことです。お若いイメージがありましたが、考えてみれば島田紳助・松本竜介とほぼ同期デビューだったんですよね。ご冥福をお祈りいたします。
1~2週間ほど、更新止まります。
エリーザ・ホーフェン『暗黒の瞬間』(東京創元社)
30年以上のキャリアに幕を引くことを決意した、ベルリンの刑事弁護士エーファ。凄腕で知られる彼女は、多くの忘れがたい事件を手がけてきた。11人が被告人となった裁判で1人だけ無実の者がおり、全員がそれは自分だと主張している。1人を救うため10人を無罪とすべきか。厄介だがよく議論される類の事件だと思われたが……。ひとつの証言、発見、弁護活動でその姿が一変する平凡な裁判、そして異常な裁判――。驚異の新人による、息を呑むような完璧なる連作短編ミステリ!(粗筋紹介より引用)
2025年2月、ドイツで刊行。2026年2月、邦訳刊行。
60代の刑事事件専門女性弁護士エーファ・ヘアベアゲンは、弁護士資格を返上する手紙を封筒に入れ、弁護士連合会に送った。「プロローグ」。
2022年2月、エーファはホテルのビーチである新聞記事を読んだ。それは、昨年10月、大富豪の年金生活者ハンス・Kの自宅にアドリアン・Sが侵入したが、Kは猟銃で逃走しようとしたSを射殺した事件の裁判結果で、裁判官は正当防衛を認定し、無罪を言い渡したというものだった。エーファはそのハンスが、2年前に脱税容疑の弁護をして無罪を勝ち取ったハンス・クレーバッハと同一人物ではないかと気になった。「第1の事件 正当防衛」。
2010年8月、フランクフルトへ出張していたトーマス・ヴェーバーは、小説家で妻のラリッサから切羽詰まったメッセージを受け取り、慌ててベルリンのツェーレンドルフ地区にある自宅に戻ってきた。家には放心した状態のラリッサと、ラリッサの兄であるクリストフの死体があった。ラリッサは、私が殴って殺したと告白した。トーマスは近所に住むエーファに電話をかけ、家に来たエーファに助言を求めた。「第2の事件 生かしておく」。
ウガンダでのクーデターに失敗して逃亡し、3年後にドイツに入国したケネス・オケロは、2週間後に同じ難民収容施設に入れられたウガンダ出身の男性から、彼の村を襲って息子を誘拐した反乱軍のリーダーの一人だと告発された。ドイツ連邦検察庁は少年たちを連行して少年兵に育て、極度の暴力行為を強制した、人道に対する罪および戦争犯罪で起訴した。そして裁判所から国際弁護人に指定されたのはエーファだった。「第3の事件 少年兵」。
ゼルマ・ホイアーはフィットネスジムで知り合った既婚者のパトリックと不倫関係になり、ゼルマは離婚したパトリックと道教するようになった。4歳の娘キーラは共同親権で、1週間おきに二人の家にやって来た。しかし我儘なキーラに手を焼くゼルマ。ある日、キーラが誤って大量の塩をプディングにかけて食べてしまい、ナトリウム中毒で死亡。ゼルマは傷害致死罪で起訴された。弁護人となったのはエーファだった。「第4の事件 塩」。
〈処刑人46〉こと46歳のフランク・シャンツァーは、46歳のIT専門家トビアス・レンラーを殺害したとして起訴された。レンラーの最大の望みは、死んで、誰か別の人間に食べられることだった。そしてその提案に応えたのがシャンツァーだった。警察の行動が早く、遺体のほとんどは見つかったが、性器だけは見つからなかった。弁護に就いたエーファは、謀殺ではなく嘱託殺人を訴えようとした。「第5の事件 人食い」。
エーファが11歳のとき、近所に住む14歳のアンゲリカの母親イルムガルトが死亡した。夫である地方新聞記者のオットー・マイアーの話では、ここ数か月酒を飲み過ぎるようになり、死んだ晩は酒を飲み過ぎて、家に帰る道がわからなくなったとのことだった。しかしイルムガルトが大酒を読んで酔っ払っている姿を見たことがなく、村の皆が疑い始めたため、マイアー家は村を去った。「第6の事件 遺稿」。
1週間後に結婚するニコ・シュラーデバッハの独身さよならパーティーが催され、同じTシャツに髪を紫色に染めた11人の男たちが集まった。最終目的地であるクラブで酔っ払ったメンバーの一人が、クラブにいた19歳のゾフィア・ガンカートを個室に連れこみ、全員で強姦した。ただし1人だけ先にクラブを出ており、彼はクラブの前にあるドネルケバブの店の前で吐いていた。店主はその事実を覚えていたが、それが11人のうちの誰かはわからなかった。そして捕まった11人は全員、自分が先に帰ったと訴えた。被害者の代理人となったエーファは、このままでは犯人を特定できず、全員が無罪になってしまうと伝えた。「第7の事件 強姦」。
エーファに弁護を依頼したのは、大学病院の主任医師である外科医のルートヴィッヒ・フリートリクセン、57歳。母親エーディットを殺し、高価な装身具を盗んだ容疑だった。事情聴取でルードヴィッヒは、事情聴取で犯行を自白していた。しかし捜査記録を読んだエーファは、ルートヴィッヒの自白に疑問を抱く。「第8の事件 自白」。
アイヒンガー医療技術株式会社に勤めるシュテファン・ハインリヒは、ロシアの保健省の役人に百万ユーロの賄賂を渡した容疑をかけられていた。見返りとして、会社はロシアに二千万ユーロを追える医療機器をモスクワに販売していた。ハインリヒはエーファに賄賂を渡したこと自体は認めたものの、それは会社が何年も行ってきたことだと訴えた。当然会社は認めておらず、罪が確定すれば即時回顧すると話していた。エーファは公判で、ハインリヒの無罪を主張する。「第9の事件 シュテファン・ハインリヒ」。
エーファは過去の歳月のあらゆる暗黒の瞬間を思い起こす。「すべてよし」。
作者のエリーザ・ホーフェンは1982年、ベルリン生まれ。現在はライブツィヒ大学法学部教授、ザクセン州憲法裁判所裁判官。共著で専門書や児童書などを発表しているが、小説家としては本書がデビュー作。そのせいかどうかはわからないが、前半、特に第1話は内容がわかりづらい。
同じドイツの弁護士兼作家であるフェルディナント・フォン・シーラッハを思わせる連作短編集であるが、その内容は少し異なる。ここで描かれるのは、法律上の有罪・無罪、心情的な有罪・無罪、そして社会的な有罪・無罪のギャップである。エーファはその境界線上で葛藤し、ときには自身の正義のために法律の枠を踏み越えてしまう。9つの事件を通してエーファの苦悩を浮かび上がらせている点が、シーラッハ作品とは異なるところだ。
意外にもミステリ要素が強く、事件の表層と意外な真相を少ない文字数で鮮やかに対比させる手腕はなかなかのものだ。連作ならではの仕掛けも用意されている。
ドイツの警察や検察の意外な大雑把さはさておき、エーファが本当に敏腕弁護士なのか疑いたくなるほど察しが悪く、さらに弁護士倫理を破ってしまう場面には違和感を覚えた。そこがどうしても引っ掛かった点である。
今年のベストを賑わせる話題作であることは間違いないが、個人的にはそこまで感心するほどではなかった。続編があるとのことなので、楽しみに待ってみようとは思う。
犯罪の世界を漂う
https://hyouhakudanna.bufsiz.jp/climb.html
「無期拘禁刑・無期懲役判決リスト 2026年度」に1件追加。
砥上裕將『一線の湖』(講談社)
湖山賞をかけて千瑛と競った展覧会から2年――。大学3年生の霜介は進路に悩んでいた。次の一歩が踏み出せず、新たな表現も見つからない日々。そんな折、亡き母が勤めていた小学校から水墨画教室の依頼を受ける。子供たちの出会いを通じて向き合う自分の過去と未来。そして、師匠・篠田湖山から託された「あるもの」とは――。夢幻の色彩を映す水墨画を通して葛藤と成長を描く感動長編。(帯より引用)
2023年12月、書下ろし刊行。
大ヒットしたメフィスト賞受賞作『線は、僕を描く』の続編。前作から2年がたち、主人公の青山霜介は行き詰まっている。一方、篠田千瑛は「水墨画界の若き至宝」としてテレビや取材などに忙しい。西濱湖峰は藤堂翠山の孫、茜と結婚してすでに子供が生まれている。霜介の親友である古前巧と、同じゼミの川岸美嘉は今も付き合っている。
2年も経てば当然スランプに陥ることもあるだろう。ということで、霜介の水墨画家としての未来、自身の進路などに苦悩し、そこからの再生が主眼となった作品。どういう風に再生させるのだろうと思ったら、霜介の母親が勤めていた小学校での水墨画教室というのは非常に巧い。子供たちの純粋な心は、絵に嘘をつかない。
2年前に湖山会を脱けた斉藤湖栖の再生もうまく絡めているし、前作ではあまり描かれなかった霜介の母親についても触れられている。前作ではほとんど出てこなかった叔父も登場する。前作で心残りだった点について、過不足なく拾い上げているところも良かった。
できれば続編、それも小学一年生の



