平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

漂泊旦那の日記です。本の感想とサイト更新情報が中心です。偶に雑談など。

横溝正史『完本 人形佐七捕物帳 三』(春陽堂書店)

 『完本 人形佐七捕物帳』第三巻収録作品は、春陽堂書店から刊行された『人形佐七捕物帳』全五巻に収録された書下ろし14本と、杉山書店から刊行された『人形佐七捕物百話』に収録された書下ろし3本を収録。春陽堂書店の書下ろし14本は、他の捕物帳や由利・三津木短編を佐七ものに改作したものであり、杉山書店の書下ろし3本は完全新作である。
 改作物はシリーズには出てこない登場人物や動作・癖など、所々で改作前の作品を引きずっているところがある。それは仕方がないであろうが、「いろは巷談」「人面瘡若衆」のようにエログロ味が濃い作品や、「まぼろし小町」「出世競べ三人旅」のように後味の悪すぎるもの、「笛を吹く浪人」のように当時の無知な医学状況で書かれたものなど、お薦めできない作品が多い。「清姫の帯」はルブランの某作品を彷彿とさせて、結構好き。あとは佐七の口説きテクニックが冴える「鳥追人形」か。
 完全新作書下ろしの方は力が入っている。「日蝕御殿」は公方様からの依頼による謎解きだし、「雪達磨の怪」は被害者しか足跡のない雪の上での連続殺人である。ただ、「坊主斬り貞宗」も情交シーンは気持ち悪いもので、何もここまで書き足さなくてもと思ってしまう。
 残念ながら第三巻は、読み応えのある作品があまりない。本格ミステリ味満載の「雪達磨の怪」ぐらいだろうか。ちなみに鳥越の茂平次、初登場作品である(これ以前の作品に出ているのは、後年に書き換えられたもの)。

 

 忘れていた「全十巻完結記念 知られざる!未発表バージョン収録冊子プレゼントキャンペーン」を慌てて応募したら、あっという間に届いた。対応早くて感動。全十巻の感想を書き終わったら、ゆっくり読もう。先は長そうだが。

ジョン・ガードナー『ベルリン 二つの貌』(創元推理文庫)

 東ベルリンのKGB先任将校が、冠状動脈血栓で急死した。彼はかつて冷戦のさなか、ハービーの諜報網を崩壊させたほどの実力者だった。だが、その死にまつわる奇妙な噂が囁かれていた。死体には首がなかったというのだ。そして、ある日突然この将校の副官が亡命してきた。ピュートル……亡命者が口にしたこの言葉を聞いた時、ハービーの心はにわかに騒立った。それは、ハービーの諜報網がこの男につけた暗号名で、東側の諜報員が知りうるはずもないからだ。裏切者がいるのか? それとも罠か? そして、首のない死体は何を意味しているのか? 諜報員の非情な世界を描いて、衝撃のラストまで読者を話さない超大作!(粗筋紹介より引用)
 1980年発表、1982年11月、邦訳が創元推理文庫より刊行。

 

 『裏切りのノストラダムス』に続くドイツ生まれのイギリス諜報員ビッグ・ハービー・クルーガーを主人公にした長編。前作は1970年代だったが、今作は1980年が舞台である。部下のトニー・ワーボイズ、新諜報組織クゥルテットのメンバーで東ドイツ政府観光局に勤務するクリストフ・シュナーベルン、同じくメンバーのヴァルター・ギレン、同僚のタビー・フィンチャーなどは前作から引き続き登場する。この辺りは、訳者に有難うと言いたいぐらい、丁寧にあとがきで説明してくれている。
 今作は東ベルリンの現地諜報員テレグラフ・ボーイズの6人のメンバーをいかにして西ベルリンに逃がすか、しかしこの中に裏切り者がいるかもしれないが、それはホントか、もしくは誰なのか。ハービー自身が東ベルリンに潜入し、虚々実々の駆け引きを繰り広げる。
 読んでいて過去の経歴と現実が交錯するところがあり、じっくり読まないと中々頭に入ってこないのだが、訳者があとがきで文中で触れられているハービーの経歴を年代順にまとめてくれているのでわかりやすい。そこさえクリアしてしまえば、あとは作品世界に没頭すればいい。スパイという世界の表裏や非情さを描き切っており、結末まで何が一体本当のことなのかわからない。東側と西側、どちらが相手を振り回しているのか。読者は振り回されるばかりなのだが、それが心地よい。
 結末まで目を離せない一作。超大作の中にふさわしい。続編『沈黙の犬たち』があるので早く読みたいのだが、やはりこのシリーズはじっくりと時間をかけてよまないといけないようだ。

横溝正史『完本 人形佐七捕物帳 二』(春陽堂書店)

 横溝正史が愛惜をもって描いた時代劇調ミステリシリーズ―江戸を舞台に、人形のような色男である佐七が繰り広げる推理劇。
「敵討人形噺」「恩愛の凧」「まぼろし役者」「いなり娘」「括猿の秘密」「戯作地獄」「佐七の青春」「振袖幻之丞」「幽霊姉妹」「二人亀之助」「風流六歌仙」「生きている自来也」「血染め表紙」「怪談五色猫」「本所七不思議」「紅梅屋敷」「からくり御殿」「お化小姓」「嵐の修験者」を収録。
 2020年2月、刊行。

 第二巻は、前巻から引き続き『講談雑誌』に連載された作品と、単行本用に他シリーズから佐七ものに改変した書下ろし作品を収録。
 佐七がしくじってほっこりする正月人情物「恩愛の凧」、佐七の一人語りによる推理の過程が楽しめる「まぼろし役者」、読者も狐に化かされる「いなり娘」、佐七の謎解きが楽しい「括猿の秘密」、佐七とお粂の大げんかが意外な方向に向かう「佐七の青春」、佐七の本格ミステリ物としては五本の指に入る傑作「風流六歌仙」、連載最終回ならではの奇妙な一作「血染め表紙」、単行本向け完全書下ろし「本所七不思議」など、様々な趣向が楽しめる。
 佐七、お粂、辰五郎、豆六という一家四人が勢ぞろいし、作者の筆ものってきたところでの連載打ち切りは残念だっただろう。
 本格ミステリファンなら、何はなくとも「風流六歌仙」を読んでもらいたい。他の作品も、捕物帳ならではの楽しさが味わえる。

窪田勇次死刑囚の第五次再審請求で、札幌高裁は再審請求を棄却した釧路地裁北見支部決定を支持し、弁護側の即時抗告を棄却

 なんでこの時期にこんな記事が出てくるのだろう。見落としがあるかもしれないが、窪田勇次死刑囚の記事は死刑確定後に見たことがない。記事中に「死刑が確定した2009年以降、窪田死刑囚がほかに4回再審請求していたことも判明。いずれも昨年3月までに退けられている」と書かれているから、今まで記事になっていなかったのはおそらく間違いない。こういう記事って、わざわざ記者が取材するとは思えないので、弁護人側から記事を書いてもらったのではないかと思われる。逆に記者が取材していたら、何らかの意図があるのだろう。
 根拠のない勝手な推測だが、執行が間近にあるかもしれないから、あえて記事にすることで再審請求中であることをアピールしているような気がする。特に札幌拘置所は、死刑囚が二人しかいないからな……。