平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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若竹七海『不穏な眠り』(文春文庫)

 葉村の働く書店で〈鉄道ミステリフェア〉の目玉として借りた弾痕のあるABC時刻表が盗難にあう。行方を追ううちに思わぬ展開に(「逃げだした時刻表」)。相続で引き継いだ家にいつのまにか居座り、死んだ女の知人を捜してほしいという依頼を受ける(「不穏な眠り」)。満身創痍のタフで不運な女探偵・葉村晶シリーズ。(粗筋紹介より引用)
 『オール讀物』2017年~2019年掲載の4編を収録。2019年12月、文春文庫より刊行。

 吉祥寺に住む藤本サツキという女性に頼まれ、蔵書を引き取りに来た葉村。すでに余命半年で家族もいないというサツキだが、友人の娘で引き取った田村遥香が栃木刑務所から出所するので、迎えに行ってほしいと依頼する。「水沫(みなわ)(がく)れの日々」。
 東都総合リサーチの桜井肇からの依頼は、大晦日に早稲田通りにある解体直前の廃ビルの夜間警備に急遽入ってほしいというものだった。問題は、そこが呪いの幽霊ビルと言われるくらい、自殺した元の持ち主の霊が出るという。ヒーターのカセットボンベがなく、寒い思いをしながら無事終了。女性事務員の公原楓に報告したら、楓は本来警備に来るはずだった恋人の行方を探して欲しいと依頼してきた。「新春のラビリンス」(掲載時タイトル「呪いのC」)。
 ミステリ専門書店〈MURDER BEAR BOOKSHOP〉でゴールデンウィークに鉄道ミステリ・フェアを開くことを計画したオーナーの富山。準備で走り回る唯一の店員・葉山。目玉となったのは、かつての人気作家神岡武一が愛人に撃たれた時の弾痕が残っている「ABC時刻表」。外出から帰った葉山にスタンガンを当てて気絶させた泥棒は、「ABC時刻表」を盗み出した。行方を追った葉山は、コレクター間のトラブルに巻き込まれる羽目に。「逃げ出した時刻表」。
 知り合いの鈴木品子に頼まれ、蔵書を引き取った葉山。12年前に死んだ従妹の家に居座り、急性心不全で亡くなった原田宏香の子供のころの宝物を知人に渡してほしいという依頼を受けた。当時、宏香を住まわせた便利屋の今井の家を訪ねた葉山は、今井の妻にいきなり包丁で切り付けられた。「不穏な眠り」。

 吉祥寺のミステリ専門書店〈MURDER BEAR BOOKSHOP〉のアルバイトとして働きながら、〈白熊探偵社〉の唯一の調査員である探偵の葉村シリーズ。評判は高いシリーズであるし、実際に今まで読んで面白かったのだが、本作品集は今一つだった。
 ミステリ好きな私立探偵は今までいたのだから別にいいはずなのだが、やはりミステリ書店で働きながら探偵を続けるという設定がどうも好きになれないし、そもそも葉村シリーズになじまないと思っている。ミステリの蘊蓄なんて、どうでもいいんだよ、このシリーズでは言ってしまいたい。それに、古本を引き取りに来てそのまま事件を依頼されるというのもワンパターン化してきた。昔の骨太な葉村はどこへ行った、と嘆きたくなる。
 「水沫隠れの日々」を除く3編はいずれも2019年に書かれたもの。2010年1月にTVドラマ化されるから、それに合わせて書かれて出版したとしか思えない。過去の作品と比べると、かなりの薄味である。葉村シリーズファンならこれでもいいのかもしれないが。一応の水準作にはなっているので。