平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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ジョン・ハート『川は静かに流れ』(ハヤカワ・ミステリ文庫)

「僕という人間を形作った出来事はすべてその川の近くで起こった。川が見える場所で母を失い、川のほとりで恋に落ちた。父に家から追い出された日の、川のにおいすら覚えている」殺人の濡れ衣を着せられ故郷を追われたアダム。苦境に陥った親友のために数年ぶりに川辺の町に戻ったが、待ち受けていたのは自分を勘当した父、不機嫌な昔の恋人、そして新たなる殺人事件だった。アメリカ探偵作家クラブ賞最優秀長篇賞受賞作。(粗筋紹介より引用)
 2007年、アメリカで発表。2008年、アメリカ探偵作家クラブ賞最優秀長篇賞(エドガー賞)受賞。2009年2月、邦訳刊行。

 5年前、殺人事件の犯人として逮捕されたアダム・チェイス。犯人と主張したのは継母のジャニスだった。無罪とはなったものの父ジェイコブに感動されて町を離れたアダムだったが、親友ダニー・フェイスの力を貸してほしいという電話を受け、戻ってきた。しかし町の人々はいまだに彼を犯人視している。元恋人で刑事のロビン・アレグサンダーも不機嫌だった。さらに新設原子力発電所の候補に選ばれていて、他の土地の所有者は全員が売却していたが、農場を持つジェイコブは拒否しており、町は二分化していた。助けに来たはずのダニーは見つからず、当時可愛がっていた父の友人の孫娘グレイスが襲われる。そして殺人事件が発生し、アダムは苦境に陥る。
 傷心のまま故郷を離れ、5年ぶりに戻ってきたアダム。傷はまだ癒えず、悪意と憎悪の視線が突き刺さる。そしてアダム自身は誰も信じることができず、元恋人のロビンや農場監督で父の親友であるドルフ・シェパードの温かい言葉も届かない。そんなアダムの絶望感と孤独感が何とも哀しい。
 殺人事件が発生し、再びアダムに疑惑がふりかかる。警察も含め、彼に向けられる視線はより一層冷たくなる。そんなアダムがもがく姿、そして絶望の中にも光を見出そうとする姿に読者は共感してしまう。父ジェイコブ、元恋人ロビン、そしてドルフやグレイス。お互いの心がなかなか通じなくても、そこにある愛が少しずつ未来への光を灯し出してゆく。そこにあるのは、家族の愛である。
 5年前の殺人事件、そして親友ダニーの失踪、グレイスへの暴行、新たな殺人事件。それらの謎が、アダム自身を取り巻く闇が晴れていくとともに、解き明かされていく。その構成が絶妙で、さらに読者の琴線を揺さぶる。いや、もう、素直に感動しましたよ、これは。そして結末も驚きました。ここにも家族の姿があったのかと。
 エドガー賞受賞も納得の出来。いや、凄かった。改めて、他の作品も読もうと思いました。