平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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青柳碧人『むかしむかしあるところに、死体がありました。』(双葉文庫)

 昔ばなしが、まさかのミステリに! 「浦島太郎」や「鶴の恩返し」といった皆さまご存じの<日本昔ばなし>を、密室やアリバイ、ダイイングメッセージといったミステリのテーマで読み解いたまったく新しいミステリ。「え! なんでこうなるの?」「なんと、この人が……」と驚き連続の5編を収録。数々の年間ミステリにランクイン&本屋大賞ノミネートを果たした話題作、待望の文庫化。(粗筋紹介より引用)
 2019年4月、双葉社より単行本刊行。2021年9月、文庫化。

 

 右大臣の庶子、冬吉が殺された。容疑者は右大臣の娘、春姫と婚約した堀川少将こと一寸法師。しかし冬吉が殺された時間、一寸法師は鬼の腹の中にいた。「一寸法師の不在証明」。
 枯れ木に花を咲かせた花咲か爺さんは、新たに次郎という白い犬を拾ってきた。それから4日後の朝、丘の上で爺さんは殺された。皆から好かれていた爺さんを誰が殺したのか。「花咲か死者伝言」。
 弥兵衛は借金を返せと迫ってきた庄屋を殺し、死体を襖の向こうに隠した。弥兵衛の前に現れたつうは、恩返しと称して反物を織り始める。つうは織っているところを覗かないでくれと頼み、弥兵衛は襖を開けて中を覗くなと言った。「つるの倒叙がえし」。
 亀を助けた浦島太郎は竜宮城で歓待される。乙姫の膝枕で浦島太郎が寝て三刻後、冬の間でおいせが昆布で首を絞められ殺された。しかし唯一の出入り口の襖には中からかんぬきが掛けられ、窓には珊瑚がびっしりと張り付いて入ることはできなかった。すなわち、冬の間は密室だった。亀から頼まれた浦島太郎が謎を解く。「密室龍宮城」。
 桃太郎に退治され、わずかに生き残った鬼たちが子をつくり、今の鬼が島には十三頭の鬼がいた。青鬼の鬼茂が殺され、喧嘩をしていた赤鬼の鬼太に容疑が掛けられる。鬼太は縛られて蔵に閉じ込められるが、また別の鬼が殺されて……。「絶海の鬼ヶ島」。

 有名な日本の昔話をミステリに落とし込んだ短編集。解説の今村昌弘が語る通り、誰もが知っている昔話を持ち込むことで、特殊設定のミステリに必要不可欠な設定の説明を飛ばしてしまうことができるのは大きい。おまけに登場人物もよく知っている人ばかりなので、こちらも要点だけ説明すればおしまい。アイディアの勝利としか言いようがない。
 第一話はアリバイ崩し、第二話はフーダニット、第三話は倒叙もの、第四話は密室殺人、第五話はクローズド・サークルの連続殺人。第一話、第二話と特殊設定とはいえ本格ミステリの王道みたいな作品ではあったが、第三話は思いっきり変化球。さすがに一筋縄ではいかない。第四話はがちがちの本格ミステリ。トリックとロジックと特殊設定が絡み合った傑作。第五話は『そして誰もいなくなった』ばりの孤島内での連続殺人。いや、連続殺鬼か。これまたひねりが入っていて面白い。
 とはいえ、これ一冊でお腹いっぱいという気にはなった。これ以上書かれても二番煎じにしか思えないが、やっぱり続編は書かれている。本作は面白かったが、これ以上を読む気には今のところならない。