平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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小林泰三『大きな森の小さな密室』(創元推理文庫)

大きな森の小さな密室 (創元推理文庫)

大きな森の小さな密室 (創元推理文庫)

会社の書類を届けにきただけなのに……。森の奥深くの別荘で幸子が巻き込まれたのは密室殺人だった! 閉ざされた扉の奥で無残に殺された別荘の主人、そしてそれぞれ被害者とトラブルを抱えた、一癖も二癖もある六人の客。犯人はこの中にいる――。犯人当ての「大きな森の小さな密室」。遺跡の発掘現場で発見されたのは、絞殺された若い女性の遺体。死亡推定時期は百五十万年前!? 抱腹絶倒の「幸精機の殺人」。ミステリでおなじみの七つの「お題」を天才殺人者やマッドサイエンティストなど一筋縄ではいかない探偵たちが解く。精密な論理が黒い笑いを構築する全七篇のミステリ連作集。(粗筋紹介より引用)

『ミステリーズ!』掲載作品に書下ろしを加え、2008年2月、『モザイク事件帳』のタイトルで東京創元社の創元クライム・クラブより単行本刊行。2011年10月、改題の上、文庫化。

金貸しの蓮井錬治が森の奥深くに住む別荘へ来た男女5人+近所に住む老人・岡崎。昼飯だからと待たされたため、近くを散歩していた5人だったが、戻ってきてみると蓮井の部屋のドアに何かが引っかかって開かない。皆で押すとドアが開き、血だまりの中に蓮井の死体があった。ドアに引っかかっていたのは蓮井の死体だった。窓も鍵がかかっており、部屋は密室だった。謎の老人、徳さんこと岡崎徳三郎が事件の謎を解く、犯人当ての「大きな森の小さな密室」。

編集者の乙田三郎太は、担当作家で不倫相手の二ノ宮里香美をホテルで感電させ殺害する。アリバイトリックは完璧、しかも里香美の夫である一の谷淳が偶然ホテルを訪れていたことで、警察は重要参考人として扱うが、一の谷は弁護士の西条源治に助けを求める。西条は、乙田にまとわりつく。倒叙ミステリの「氷橋」。

コンビニ店員の長柄宮菜穂子は、水にコミュニケーション能力があるという研究をしている秋葉猛士と付き合っているが、最近はストーカーがいるから菜穂子が危ない、という理由で会っていない。猛士からメールで来てほしいと言われた菜穂子は、同じ店員の睦月早苗に励まされ、猛士がいる研究所へ行くが、猛士は殺害されていた。コンビニ店員仲間の新藤礼都が謎を解く。西条も登場。安楽椅子探偵ものの「自らの伝言」。

NPO団体超考古学研究所が行っている発掘現場で、アルバイトの女子学生、中野幸代が血まみれの腕を発見した。その後、発見された死体は助手の荒川純だった。しかし、彼女が埋まっていたのは、第四期更新世の地層。彼女は百五十万年前に殺害されたのか。超限探偵Σが謎を解く。新藤礼都も登場。バカミス、「更新世の殺人」。

探偵を始めたマッドサイエンティスト、丸鋸遁吉に無理矢理助手に任命されたわたしは、丸鋸の友人である資産家の金盥狆平の別荘へ行き、狆平の甥と姪とともにタクシーに乗って別荘へ行くも、吹雪にあって命からがら別荘に辿り着く。狆平はここ半年、原因不明の下痢や腹痛、病気に見舞われたが、医者の梅安に見てもらった結果、実は砒素を盛られていたことが判明。その夜、狆平が毒殺された。??ミステリ、「正直者の逆説」。

前向性健忘症の田村二吉は、マッドサイエンティスト、丸鋸遁吉によって改造され、亡くなった事件の被害者の被害者の脳の記憶を移植されてしまう。SFミステリ、「遺体の代弁者」。

サラリーマンの田村二吉のところへ、高名な探偵だから事件の謎を解いてほしいと岡崎徳三郎が現れる。ただし田村には、探偵だったという記憶がない。岡崎は、二、三日ごとに決まった十七か所にパン屑が落ちている謎を解いてほしいという。日常の謎、「路上に放置されたパン屑の研究」。



「大きな森の小さな密室」はストレートな犯人当て、「氷橋」はわかりやすい倒叙ミステリであるが、「自らの伝言」には怪しげなニューサイエンス(エセ科学)が出てくるし、「更新世の殺人」に至っては登場人物が皆おかしく、さすがの新藤礼都も呆れるしかないバカミス。「正直者の逆説」では丸鋸が開発したという万能推理ソフトウェアに出てくるΣが事件のヒントを言い残すし、最後は小説の冒頭の条件を基に事件の謎を解き明かすというアホらしい展開。「遺体の代弁者」に至っては、口をあんぐりとするしかない設定。「路上に放置されたパン屑の研究」はもはや、何も語りたくないという境地に達せられる。

作者の暴走ぶりを楽しむしかない短編集だが、はっきり言ってこのような暴走が苦手な私には、読めば読むほど苦痛になっていくしかなかった。ちなみに登場人物は、作者の過去作品の再登場となっているが、過去作品をほとんど読んでおらず、読んだ作品もすっかり忘れている自分にとっては、何の意味ももたらさなかった趣向であり、あくまでファン向けと作者の自己満足でしかない。

まあ、色々な意味で、「ひどい」短編集である。好きな人は好きだろうけれど。