平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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エイモス・アーリチァ、イーライ・ランドウ『暗殺名はフェニックス』(ワニの本 海外ベストセラーズ)

 1977年、リビアの若き指導者カダフィ大佐は、イスラエルとエジプトの中東和平工作を阻止するため、黒幕とみなされるイスラエル外相ダヤンの暗殺を命ずる。そこでリビア情報部は3人の国際的殺し屋を調達した。
 パリ・モード界の女王で毒殺の専門家シャーロット夫人。もう1人はジャーナリストで爆発物専門のギブスコッフ。最後の1人は暗号名フェニックス――だが、仲介者さえ本名も素顔も知らないこの謎の人物は、各地に秘密のアジトを持ち、複数のパスポートを使いわける変装の名人で、ラムのコーク割りしか飲まない冷酷な暗殺者である。
 このトップクラスの殺し屋は、契約料として50万ドル、成功報酬としてなんと、250万ドルを要求。一方、リビア側も、もし暗殺の前に標的が死んだ時は、1セントも支払わないという条件をつける。この条件に不信を抱いたフェニックスは、自分の他にライバルが2人いることをつきとめたのだった。
 ライバルを倒す、と同時に、標的ダヤンを撃つ――この二重の使命を負ったフェニックスと秘密情報部との息詰まる攻防戦が始まった……。
 イスラエル秘密警察の元高官と、ジャーナリスト(共に、ダヤンの配下として働いた経験をもつ)が、精通した知識と経験をもとに描いたスパイ・スリラー久びさの話題作!(粗筋紹介より引用)
 1979年6月、アメリカで発表。1979年11月、邦訳刊行。

 

 訳者のあとがきによると、エイモス・アーリチァは最近までイスラエル警察機構のなかで警視正に相当する要職で活躍していた。イーライ・ランドウはイスラエル情報部のめあましい大成功といわれる「ウラニウム船作戦」の実録をシグネット・ブックに共著の形で発表した作家のひとり。二人はモシエ・ダヤンが「ハイヨム・ハゼー」紙の編集主幹をやっていたとき、ともに副編集長として仕事をしたことがあるという。
 40年前の作品だから、カダフィ大佐も若い。本編では出てこないけれど。エジプトとイスラエルが1979年に平和条約を結ぶ直前の話。条約の黒幕であるイスラエルのダヤン外相の暗殺計画に動くリビアと、それを阻止するイスラエル情報部との裏の争いを描いた一冊。実際にあったかどうかはわからないが、秘密警察の元高官とジャーナリストが描いた作品なので、リアリティは十分。当時の情勢を知るのにもいいかな。
 なんといっても目玉は、失敗をしたことがないという暗号名フェニックスが、どのようにして殺人計画を立てるか。また、ライバルとなるほかの殺人者たちをどう倒するのか。逆にイスラエル情報部がどのようにしてフェニックスを追い詰めるのか。ただ、最後の殺人方法がちょっと拍子抜けかな。やっぱり重要人物の暗殺って、ライフルを使った狙撃、というイメージが強い。もちろんそんなことをしたら、たとえ狙撃に成功しても捕まるだろうから、そんな手段はとらないだろうけれど。ただ、慎重な暗殺者にしては、接触する人物が多い計画だな、という印象である。できるだけ接触する人物を減らし、足取りを捕まらせないようにしそうなものだが。
 ちょっと古いけれど、当時の緊迫した情勢を勉強しながら、楽しく読むことができた。まあ、作家だったらもう少し派手なシーンを入れそうな気はするが。