平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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フレデリック・フォーサイス『神の拳』上下(角川文庫)

神の拳〈上〉 (角川文庫)

神の拳〈上〉 (角川文庫)

神の拳〈下〉 (角川文庫)

神の拳〈下〉 (角川文庫)

1990年、イラクに技術協力していたロケット砲弾開発の世界的権威ジェラルド・ブル博士がブリュッセルで暗殺された。数日後、サダム・フセインクウェートに侵攻。アメリカを中心とする多国籍軍は、サウジアラビアで戦闘の準備を進めた。その頃、イラクからの電波が傍受された。「"神の拳"がまもなく手に入る」。"神の拳"とはなにか?フセインは何を考えているのか? ――学者や諜報機関のベテランが情況分析を試みる。その結果、詳細な情報入手のため、ある男にバグダッド潜入員として、白羽の矢を立てた――。徹底した取材とストーリー・テリングの天賦の才が結実した、迫真の傑作長編。(上巻粗筋紹介より引用)

褐色の肌の英国軍将校マイク・マーチンはインド人の母と英国人の父を持ち、少年時代をバグダッドで過ごした。彼はアラブ人を装い、空爆が始まったバグダッドに潜入する。多国籍軍は最新ハイテク技術イラク軍戦力を完璧に把握していると思われていた。が、多くの戦争設備は偽装によって隠されていた。マーチンはかつて級友と遊んだ街で、活動を開始した。イスラエルが抱えるサダム政権内のスパイ"ジェリコ"に接触し、"神の拳"の正体を暴き、その使用を阻止するために。フォーサイスは史上初の衆人環視下の戦争"湾岸戦争"を通して告発する。事実は報道された通りではないのだと。(下巻粗筋紹介より引用)

1994年6月、世界同時刊行。日本では角川書店より単行本刊行。1996年11月、文庫化。



湾岸戦争を舞台にした国際情報小説。「神の拳」が何かは予想つくだろうが、その秘密を探り当てるために活躍するマイク・マーチン大佐の働きはお見事としか言いようがないし、本当に成功するのか、手に汗握る展開となっている。

もちろん架空の人物だが、当時の世界のトップたちが実名で出てくるため、思わず本当にいたのではないかと思ってしまうぐらい、描写はリアル。イラクの生活描写も頭に浮かんでくるように書かれているし、一体どこまで取材をしたのだろうとは思ってしまう。

ただ、余計な登場人物が特に前半には多かった気がする。その分、人物関係を把握するのに少し時間がかかってしまった。

スケールはでかいし、サスペンス度も流石だとは思うけれど、それでもどこか絵空事のようにしか見えない部分があるのはなぜだろう。面白いのだが、読み終わってみるとどことなく物足りない。勝つ側から描かれているせいかな。湾岸戦争イラク側に感情移入できる人物を描くのは難しいから、仕方のないことなのだが。