平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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有栖川有栖『幽霊刑事』(講談社)

幽霊刑事(デカ)

幽霊刑事(デカ)

 

 巴東署刑事課捜査一係の神崎達也は、殉職した父の後を追い、刑事となった。同じ刑事課の森須磨子とは恋人同士で、巡査部長への昇任試験に合格したら結婚する予定だった。しかし東署に転勤になって四か月の神崎は、上司である経堂課長に浜辺まで呼び出され、そして射殺された。同じ巴東署の生活安全課の巡査だった新田が五か月前に殺害されて、これで二件目である。死んだはずの神崎だったが、幽霊となってこの世に残っていた。誰にも見えず、物も触れずの状態の神崎だったが、偶然にも後輩の早川は祖母が青森のイタコだったせいか、神崎の姿を見て、話すことができた。当然犯人が経堂であると訴えるも、証拠や動機すらないので、捕まえるわけにはいかない。そのうちに、経堂も警察署の中で密室状態で殺害されてしまう。この連続殺人事件の真相は。
 1998年9月20日大阪万博記念ホール/万博記念公園内お祭り広場で行われた『熱血! 日立 若者の王様Part9 推理トライアスロン』(主催・日立製作所 後援・毎日放送)のために提供した推理劇『幽霊刑事』の原案を小説化。2000年5月、講談社より単行本刊行。

 

 有栖川にしては珍しいノンシリーズもの。まあ経緯が経緯だから当然か。殺害された被害者が幽霊となって犯人を追いかける作品はオサリヴァン『憑かれた死』やカリンフォード『死後』などの作品があって、目新しいものではない。もちろん作者も知っているだろうし、あくまで題材として使っただけだろう。
 神崎が殺害された状況を見ると、すぐにあのトリックが思い浮かぶのだが、作者は当然それも承知しており、意表をつく展開と意外な犯人、そして意外な殺人の動機が用意されている。神崎と早川のやり取りがどことなくユーモラスでありながら、幽霊であるが上の苦悩や、恋人の一つ一つの仕草や科白に対する嫉妬など、いかにもドラマ化に向いてそうな展開の書き方はうまい。ありがちな展開とは思ったけれど。
 本格ミステリの謎解きと、恋愛ドラマがうまくミックスされた佳作という印象。舞台のドラマ化といわれると納得する。あまりごちゃごちゃしない、シンプルな作りが面白かった。