- 作者: 今野敏
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2016/07/29
- メディア: 単行本
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『小説推理』2014年8月号〜2016年2月号連載。2016年7月、刊行。
「隠蔽捜査」シリーズの長編6作目。今回はストーカーと対峙するが、事件の方は一応裏があるとはいえ、構造は割と単純なもので、意外性といったものはない。ミステリファンならすぐに事件の構図が予想つくだろう。プロに任せるという竜崎の姿勢はいつも通りだし、常にぶれない竜崎のやり方に周囲が感動するというのも相変わらずで、結末も含め、完全なワンパターン。お約束として楽しむか、飽きが来たと見るかは、読者次第だろう。私は正直言って後者になりつつあるのだが。
焦点となっているのは、短編「人事」で新たに赴任した、警視庁第二方面本部本部長、弓削篤郎警視正とのやり取りの方である。ノンキャリアながら本部長まで出世した弓削と、キャリアで階級は弓削より上である竜崎とのやり取りは、階級が上である竜崎に敬語を使いながらも、主導権を握ろうとする弓削が卑屈にしか見えず、見え見えの造形となっている。しかし「人事」で描かれた弓削は、自らの意思こそ通そうとするが、わりと豪放な人物であったため、あまりにもギャップが激しい。過去作に出てくる敵対キャラクターと違って軟弱な部分も目立ち、迫力に欠ける。逆に野間崎政嗣管理官の方が生き生きと仕事をしており、上司に媚びながら出世してきた過去の描かれ方と印象が異なって見える。うーん、作者に何があったんだ。
唯一の救いは、新キャラクターの生活安全課、根岸紅美巡査、28歳。少年係にいるが、毎夜自主的に盛り場を歩いて少年少女たちに声を掛けて相談にも応じるという熱心な人材。ストーカー対策チームに入り、同じく刑事課から選ばれた戸高義信とコンビを組むことになる。これはなかなかいい人材だ。今後、話を動かすことになりそうだ。戸高のキャラクターが相変わらずだったのには安心した。思いの外、相棒思いだったようだが。
正直言って、パターン化されたストーリーそのままの作品。美紀の件も今一つだったし、事件も今一つ。このままだと、ファンに厭きられるぞ。作者の踏ん張りに期待したい。