平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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今野敏『同期』(講談社ノベルス)

同期 (講談社ノベルス)

同期 (講談社ノベルス)

家宅捜査中に逃走した暴力団組員に捜査一課の宇田川が発砲された。すると突如、同期の公安刑事・蘇我が現れ宇田川を助ける。だが3日後、蘇我は懲戒免職となり姿を消す。そして連続殺人の容疑者に。同期を救おうと宇田川は独自捜査を始めるが、組織の論理が高い壁となる――。予測不能! 怒涛の展開が続く、警察小説の大傑作。(粗筋紹介より引用)

2009年7月、講談社より単行本刊行。2011年7月、ノベルス化。



『隠蔽捜査』でようやく人気作家の仲間入りを果たし、絶好調の頃に書かれた警察小説。対立関係にある暴力団組員の連続殺人に隠された裏、組対四課との合同捜査本部における主導権争い、右翼の超大物。次から次へと変ってゆく捜査状況。警視庁刑事部捜査一課に来て一年となる巡査部長、32歳の宇田川と、公安総務課の蘇我。そして宇田川と組んでいる51歳の警部補、植松と下谷署強行犯係の部長刑事、土岐。二組の同期が絡み合う。

事件に隠された謎はなかなか面白い。しかも各組織やトップが隠している裏に立ち向かう刑事たちの姿も、読んでいて感動する。次から次へと事件の景色が変わるため、その度に驚かされる。そして宇田川と蘇我の同期の絆。単なる同期でありながらも、なぜかつながっているという関係は、読者の会社の同期を思い浮かべさせるものであり、どことなく微笑ましく、そして心打たれるものがある。植松と土岐という、すでに出世街道からは外れていても、刑事としての本分を持ち合わせた二人が宇田川を導く姿も、熱いものがある。

残り数ページとなってまでも事態が変化する展開はお見事としか言いようがない。かなり複雑な構図であったが、多分頭の中で地図を描きながら、少しずつ修正していったのだろう。お見事といってよい作品。警察小説というジャンルを説明するときに、残しておきたい一冊である。