平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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トム・ロブ・スミス『グラーグ57』上下(新潮文庫)

 

グラーグ57〈上〉 (新潮文庫)

グラーグ57〈上〉 (新潮文庫)

 
グラーグ57〈下〉 (新潮文庫)

グラーグ57〈下〉 (新潮文庫)

 

  運命の対決から3年――。レオ・デミドフは念願のモスクワ殺人課を創設したものの、一向に心を開こうとしない養女ゾーヤに手を焼いている。折しも、フルシチョフは激烈なスターリン批判を展開。投獄されていた者たちは続々と釈放され、かつての捜査官や密告者を地獄へと送り込む。そして、その魔手が今、レオにも忍び寄る……。世界を震撼させた『チャイルド44』の続編、怒濤の登場!(上巻粗筋紹介より引用)
 レオに突きつけられた要求は苛酷をきわめた。愛する家族を救うべく、彼は極寒の収容所に潜入して、自ら投獄した元司祭を奪還する。だが、彼を待っていたのは裏切りでしかなかった。絶望の淵に立たされ、敵に翻弄されながらも、レオは愛妻ライーサを伴って、ハンガリー動乱の危機が迫るブダペストへ――。国家の威信と個人の尊厳が火花を散らした末にもたらされる復讐の真実とは?(下巻粗筋紹介より引用)
 2009年、イギリスで刊行。『チャイルド44』に続くレオ・デミドフシリーズ第2作。2009年9月、新潮文庫より刊行。

 

 『チャイルド44』で世界中から高評価を得たトム・ロブ・スミスのシリーズ第2作で、前作の3年後が舞台となっている。ソ連の最高指導者、ニキータ・フルシチョフによるスターリン批判とその後のハンガリー動乱が背景となっている。
 ひとことで言ってしまうと、レオ・デミドフが家族を守るために奮闘する作品、なのだが、実際にはソ連という国の実像を浮き彫りにした作品である。レオに降りかかる難題やアクションシーンはやりすぎ、と言いたくなるぐらい展開が早すぎるのだが、だからこそ読める作品といえるだろう。どんだけ暴力を受けるんだ、というぐらいレオが痛めつけられるのだが、それでも愛する家族のために力を振り絞る姿に思わず共感してしまう。残酷すぎるぐらいの時代の流れに翻弄されながらも、それでも必死に生きようとする姿が感動を呼ぶ。
 表題の“グラーグ57”は、レオが潜入する第57強制労働収容所を指す。原題は"The Secret Speech"。1956年のソ連共産党第20回大会におけるフルシチョフによる秘密報告「個人崇拝とその結果について」のことである。