- 作者: トム・ロブスミス,Tom Rob Smith,田口俊樹
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2008/08/28
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少年少女が際限なく殺されてゆく。どの遺体にも共通の"しるし"を残して――。知的障害者、窃盗犯、レイプ犯と、国家から不要と断じられた者たちがそれぞれの容疑者として捕縛され、いとも簡単に処刑される。国家の威信とは? 組織の規律とは? 個人の尊厳とは? そして家族の絆とは? 葛藤を封じ込め、愛する者たちのすべてを危険にさらしながら、レオは真犯人に肉迫してゆく。(下巻粗筋紹介より引用)
2008年、発表。2008年、CWA(英国推理作家協会)賞最優秀スパイ・冒険・スリラー賞(イアン・フレミング・スティール・ダガー賞)を受賞。2008年9月、翻訳。
作者のトム・ロブ・スミスは、映画、ドラマのシナリオライター。本作は処女作で、刊行時点で29歳だった。
全世界で注目を浴びた本作。刊行時点で20数か国での翻訳が決まりながらも、ロシアでは発禁書となっている。
本作の元となったのは、1978年から1990年にかけ、52人の少年少女をレイプして殺害した、アンドレイ・チカチーロ事件である。それをスターリン死亡直前の1953年に移し、主人公をソ連国家保安省の若き敏腕捜査官、レオ・デミドフにしている。
当時のソ連を舞台にした警察小説らしきものなのかと思いつつも読んでいたが、実際は当時のソ連の様相を克明に写し出した人間ドラマだった。「この国に犯罪は存在しない」という理想と現実、ちょっとしたことで逮捕され強制収容所に送り出される実態、密告や裏切り、足の引っ張り合いに満ちた日常などを映し出し、ソ連という国の矛盾と恐怖を浮かび上がらせている。こんな恐ろしい時代があったのかと思う人もいるだろうが、ナチス時代のドイツや敗戦以前の日本も似たようなものだったから、手段が異なるだけで、独裁者がいる国のやることは変わらないということだろうか。
上巻のレオが策略にはまってどんどん転落していく姿は実に読み応えがあったのだが、下巻以降、特に強制収容所に送られるところからはあまりにもご都合主義でドタバタ感がひどい。前半の重厚さが台無しになっており、とても残念である。また連続殺人の動機が、報道のある民主主義国家ならいざ知らず、情報統制が当たり前のソ連でいったいどこまで届くのかかなり疑問であり、このようなことを考える犯人の精神構造がちょっとわからなかった。
それでも上下巻の長さを一気読みさせるだけの筆力、迫力は十分な作品である。これが処女作だというのだから、大したもの。後半はやや残念だが、それでも傑作と言ってよい作品だと思う。