平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

漂泊旦那の日記です。本の感想とサイト更新情報が中心です。偶に雑談など。

今村昌弘『魔眼の匣の殺人』(東京創元社)

魔眼の匣の殺人

魔眼の匣の殺人

 

 その日、“魔眼の匣"を九人が訪れた。人里離れた施設の孤独な主は予言者と恐れられる老女だ。彼女は葉村譲と剣崎比留子をはじめとする来訪者に「あと二日のうちに、この地で四人死ぬ」と告げた。外界と唯一繋がる橋が燃え落ちた直後、予言が成就するがごとく一人が死に、閉じ込められた葉村たちを混乱と恐怖が襲う。さらに客の一人である女子高生も予知能力を持つと告白し――。
 残り四十八時間。二人の予言に支配された匣のなかで、生き残り謎を解き明かせるか?!
 二十一世紀最高の大型新人による、待望のシリーズ第二弾。(粗筋紹介より引用)
 2019年2月、書き下ろし刊行。

 

 鮎川哲也賞本格ミステリ大賞、年末ミステリーベスト三冠と、ミステリ界を席巻した『屍人荘の殺人』シリーズ第二弾。ミステリー愛好会を再建した葉村と、新たに入会した剣崎。班目機関がかかわった超能力研究所を訪れた葉村と剣崎が、外科医と連絡を取ることのできない施設で連続殺人事件に巻き込まれる。
 絶賛されすぎじゃないのと言いたくなるぐらい絶賛された『屍人荘の殺人』。これは第二作が非常に厳しい目で見られるだろうな、作者のプレッシャーは並大抵のものじゃないだろうなと思っていたのだが、1年半程度で第二作が出てくるとは思わなかった。
 前作はゾンビに襲われるというサスペンスの要素も強かったが、本作は予言通り四人が死ぬのか、という要素を除くと、淡々と物語が進んでいく。葉村と剣崎の関係にあったラノベ要素がかなり薄くなっており、作者が謎解きに重点を置いたのかな、という印象を受けた。
 犯人像が見えてこなかった部分ではやや中だるみを感じたものの、最後の剣崎による謎解きは圧巻。「予言」というキーワードを十分に生かした展開はお見事といっていいだろう。まあ、小説の世界ならでは、みたいな逆手の手法ではあったといえるが。
 作者のうまいところは、本格ミステリのお約束の扱い方かな。特に“お約束”の外し方がうまい。それも不自然でなく見せるところが。そこが意外性を生んでいると思う。
 前作ほどのインパクトはないものの、逆に論理性を重視した分、かえって読みやすくなったのではないだろうか。二作目を待っていた人の期待を裏切らない出来であったといってよいだろう。しかし、三作目のハードルは上がるだろうし、そしていずれ迎えるだろう班目機関の畳み方が大変そうだ。作者にはぜひ頑張ってもらいたいところである。