- 作者: 姉小路祐
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 1999/04
- メディア: 文庫
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有罪確定か? だが、法廷は揺れた。朝日岳之助弁護人が検察に敢然と挑んだからだ!
冤罪をテーマとした社会派ミステリーの力作、ついに文庫化。(粗筋紹介より引用)
1989年、第9回横溝正史賞佳作受賞作。同年5月、カドカワノベルズより発売された作品を、1999年4月文庫化。
作者のデビュー作であり、かつシリーズキャラクターでもある朝日岳之助弁護士のデビュー作でもある。朝日弁護士は、日本テレビの火曜サスペンス劇場で、1989年から2005年まで、合計23作作られたとのこと(Wikipedia参照)。小林桂樹が朝日弁護士を演じていた。
強盗殺人事件で捕まった前科者が、最初こそ否認していたものの、後に自白。しかし物的証拠に乏しく、裁判では無罪を主張。検察側の矛盾点を指摘する朝日弁護士だったが、裁判は無罪と有罪で大きく揺れる展開。法廷ものではありがちな展開で、新味はないと思ったのだが、二転三転する展開と、事件の意外な真相はなかなかのもの。ただ、冤罪に関するレクチャー的な文章は少々しつこく、不要だった。作者の冤罪に対する思いが、悪い方に働いた感がある。また、初めて殺人事件に取り組む風城拓之の描写が多いが、警察側の想いを伝えるための登場人物とはいえ、行数を使いすぎである。
結末が駆け足なところは仕方が無いのだが、その方向性には疑問。プライドだってあるだろうし、弁護人の説得にそう簡単に応じるとは思えない。むしろ隠蔽する方向に回るだろう。展開がセンチメンタリズムに流れてしまったのは、冤罪というテーマを浮き彫りするためとはいえ、安直すぎる。このあたりが、プロの作家には受けず、大賞には届かなかった要因の一つでは無いだろうか。
本作は佳作止まりだったが、少なくとも正賞の『消された航跡』よりは面白いし、(書き直しがあったのだろうが)出来は上。作者は2年後、『動く不動産』で第11回横溝正史賞を受賞して雪辱を果たすのだが、それも実力があったからだろう。