平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

漂泊旦那の日記です。本の感想とサイト更新情報が中心です。偶に雑談など。

桂美人『ロスト・チャイルド』(角川文庫)

ロスト・チャイルド (角川文庫)

ロスト・チャイルド (角川文庫)

法医学教室の助教授・神ヒカルは、監察医務院で外国人グループの襲撃に遭う。次々と犠牲者が発生する中、襲撃犯の目的は解剖室に運ばれた女性国際スパイ《ジュリエット》と判明、その死体にはある機密が隠されているという。しかも彼らはヒカルのことを知っていた。誰にも触れられたくない<あの忌まわしき過去>のことも…。襲撃犯の真の目的は? そしてヒカルにまつわる驚愕の秘密とは――? 横溝正史ミステリ大賞受賞作。(粗筋紹介より引用)

2007年、第27回横溝正史ミステリ大賞受賞作。2007年6月に単行本として刊行。大幅な加筆訂正の上、2009年9月文庫化。



出だしから東京都監察医務院の解剖室へ3人の外国人が襲撃。大崎署から立会に来た警部や職員が死亡。警視庁公安部外事一課管理官のエリートである速水優人警視が重体。襲撃犯からの命令を受けた慶應大学法医学教室助教授のヒカルは、解剖補佐の小野悟とともに死体を解剖。襲撃犯の1人マリーは、その後仲間を撃ち逃亡。その後、黒須隼人警視が率いるSAT第三小隊が突入。襲撃犯は死亡し、ヒカル達は救出される。重体だったはずの速水は、ヒカルの不思議な力で助かった。

最初から息もつかせぬ派手な展開なのだが、その後はヒカルの過去や悲劇に触れられ、さらに続いて別の殺人事件が発生。藤村悠一�欖厚生労働大臣の失言も含めた不妊治療や代理出産等の社会問題が絡むかと思えば、ヒカルを巡る速水と黒須の恋愛話、さらに兄タツミへのヒカルの想い、ヒカルの従姉である水野智子の双子達や優人の息子春斗なども物語に複雑に絡んでくる。最先端の医学や海外の企業スパイなども出てきて、最後には盛り沢山すぎて何が何だかわからなくなるところを、強引すぎる作者の筆が無理矢理物語を進めていく。その強引さには感心してしまうが、どんな物語だったのかと言われて簡単に纏められる人は少ないのではないだろうか。はっきり言ってしまうと、事件の背景なんかどうでもよく思えてきて、最後ヒカルはどうなるんだろう、といった点に意識が流れてしまった。まとまりのかけらもない作品だが、書ききったという点を考えると、サスペンスとしては一応成功しているのだろう。その大きな要因は、劇画チックではあるが登場人物のキャラが立っているところにある。

ただ、これが横溝正史ミステリ大賞に相応しいかどうかと聞かれると疑問。逆に言うと、選考委員もよくこれを大賞に選んだな、と感心してしまった。同時受賞に、この賞らしい『首挽村の殺人』があるのにもかかわらずである。完成度が高いとは言えないが、それだけの魅力がある作品だったのだろう。