- 作者: 藤村耕造
- 出版社/メーカー: 角川書店
- 発売日: 1995/05
- メディア: 単行本
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1995年、第15回横溝正史賞佳作受賞。加筆訂正の上、同年5月、単行本刊行。
作者は現役弁護士。森健次郎名義で1992年、1993年と乱歩賞の最終候補に残っている。
現役弁護士らしく、主人公に司法研修生をもってきた。珍しい設定であり、作者には書きやすい内容だっただろう。そのせいか、筆は非常にノッている。しかし、人物造形は全く駄目であり、誰一人顔が浮かんでこないのには困ったものだ。特に赤羽としのぶが恋愛関係にあるなんて、肝心の場面になるまで全く想像つかなかった。
逆に裁判シーンはさすがと言える。同時進行でしのぶが裁判習得に出ていた3女性連続猟奇殺人事件の裁判シーンは、現役ならではであろう。事件の真相も意外なところに着地しており、構成自体は悪くない。とはいえ、読み終わってみると、粗が目立つ。殺人現場を再現する理由が結果としてあまりなかった、他の弁護士たちがあまりにも空気な存在で不必要だった点などである。しかし、最大の問題点は、選考委員のいずれもが指摘している点である。ネタバレに直結するのでここでは伏せるが、はっきり言って本作品の根底を覆すような問題点であり、出版時点でも全く解決されていない。
言っちゃ悪いが、ヒロインの立場が珍しいものであっただけであり、佳作として出版されるほどの作品でもなかった。作者は弁護士活動が忙しいのか、乱歩賞応募作を改稿した作品を出版しただけで、以降は沈黙している。