- 作者: 内田幹樹
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2006/08/29
- メディア: 文庫
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1997年、第14回サントリーミステリー大賞優秀作品賞受賞。1999年、原書房より刊行。2005年、原書房より新装版が刊行。2006年、文庫化の際に改稿。応募時及び単行本時の名前は内田モトキ。
執筆当時の作者は、現役のパイロット。乗務のかたわら、操縦教官として実機訓練所のある沖縄県の下地島に滞在していた。しかし持ってきていた本をすべて読みつくしたため、暇つぶしに書いたのが本作だという。
パイロット・イン・コマンド(PIC)とは、フライトの総指揮をとる機長のこと。第二指揮順位の機長だとセカンド・イン・コマンド(SIC)という。本編の場合、PICの砧、SICの朝霧が意識不明となったため、副操縦士の江波順一が、キャビン・アテンダント(CA)の一人でセスナが趣味という浅井夏子とともに着陸を目指す。
サンミスの優秀作品賞ということは、昔でいえば佳作クラス。とはいえサンミスの場合、大賞や読者賞よりも優秀作品賞や佳作の方が面白かったというケースは多々あるので、油断がならない。しかし本作の場合は、主催者である文春ではなく、原書房から出版されたという点が異なる。
本作品は出版に当たり加筆修正されており、さらに文庫化時にも修正されているそうだ。だから、応募時の大賞や読者賞作品と比べてはいけないのかもしれない。ただ読み終わった感想からすると、三宅彰『風よ、撃て』や高尾佐介『アンデスの十字架』に比べると、面白かったということは言える。ただこの面白さは、当時現役パイロットだった作者ならではの、飛行機関連の描写がリアリティに溢れ、臨場感があった点でしかない。サスペンスとしては今一つだったといえる。
まず登場人物、特にCAの数がが多く、人物の背景を描いているだけで結構なページを使っており、事件が起きるまでが間延びしている。リアリティを求めた作者ならではの処置ではあろうが、書き分けができているわけでもないので、読んでいても誰が誰だったか、さっぱりわからない。主要人物の動きに絞ってくれた方がよかった。
中盤からの展開はさすがと思わせるものがあるが、結末は納得がいかない。諸事情はわかるのだが、いくらなんでもプロの仕事に対してこれはないだろうと思ってしまう。なんかすっきりしない終わり方だった。やはりサスペンス小説はエンタテイメントなのだから、最後はキッチリした形で終わらせるべきだったと思う。
江波は作者の『機体消失』や『操縦不能』でも登場するらしい。まあ、他の作品を手に取る予定は、今のところ無いのだが。