平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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佐倉淳一『ボクら星屑のダンス』(角川文庫)

借金で浜名湖に入水しようとしていた浅井久平は、同じく自殺を図る不思議な子供ヒカリと出会った。ヒカリは最先端科学センターから逃げ出してきた天才だという。半信半疑ながらも一緒に逃避行を始めた久平。一方、内閣官房から指令を受けた警察はヒカリの捜索を開始。だが、ヒカリはネットを駆使して逆に自ら誘拐を装い、100億円を要求した。はたしてヒカリたちは現金を奪取し、偽装誘拐を完遂できるのか?(粗筋紹介より引用)

2010年、第30回横溝正史ミステリ大賞テレビ東京賞受賞。加筆訂正の上、2011年7月、角川文庫より刊行。



誘拐された本人が100億円を要求するという展開は『大誘拐』を彷彿させる。ユーモアあり、感動ありといった展開も、似ている。読んでいて面白かったことは事実。とはいえ、設定の甘さは最初から多々ある。選評で「設定が甘すぎる」「過程が杜撰すぎる」「突っ込みどころ満載」などと評されながらも、そのアイディアは高く評価され、修正の上での刊行が認められたものだ。作者は応募原稿を三回書き直したという。おそらく、応募当初はもっと杜撰だったのだろう。しかし書き直してこれでは、まだまだ書き直しさせるべきではなかったか。

天才少女という設定はありがち。その少女を取り巻く科学センターの立ち位置や日本国の反応は分からないでもない。しかしそれだけの人物を狙っているのがロシアのみ、それも一人しかいないというのは腑に落ちない。誘拐にあったからと言って、内閣官房から来たのも一人であり、事件に対応したのも県警というのは、事の重大さと比較しても物足りない。誘拐のアイディア、100億円という身代金の奪い方は面白いが、肝心の個所が綱渡りにしか見えない。小説そのものを見ても、前半部は肝心なところを飛ばしながらの描き方になっており、作者が独りで先走った内容になっている。

それでも先に書いた通り誘拐のアイディアは面白いし、それ以上に「星屑のダンス」が意味するところはなかなか感動できる。これを勿体ないと思った選評委員の気持ちもよくわかる。

作者は第25回、第27回にも最終候補作に名を連ねている。テーマは全く異なったものならしい。過去の選評にあった「作者には、これを書きたい、という情熱がある」というのはよくわかった。しかし、その情熱に小説の書き方が追い付いていない。そのことが残念である。

横溝賞はマジック5。なかなか本を読む時間が取れず、他に読みたい本もあるので、ここから先が進まない。