平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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山田宗樹『直線の死角』(角川文庫)

直線の死角 (角川文庫)

直線の死角 (角川文庫)

企業ヤクザの顧問を務める弁護士・小早川の事務所に、あらたな事務員として紀籐ひろこが採用される。その当時、小早川事務所は二件の交通事故の弁護を同時に引き受けていた。一件は謝罪の意思の無い加害者の弁護。もう一件は死亡現場に警察の見つけていない証拠の残された事件であった。素人同然のひろこは難航していた二件の糸口を見つけだす。才能あるひろこに次第に惹かれていく小早川であったが、身元を調査した結果は…。究極の女性を好きになった男の深き苦悩と愛情の物語。(粗筋紹介より引用)

1998年、第18回横溝正史賞受賞。



ちょっと癖のある悪徳弁護士ものなのかと思ったら、主人公の小早川は意外と正義感があるし、引き受けた二件の交通事故の弁護については小早川の想定と異なった方向へ流れていく。どちらも事件の糸口を見出すのは、採用されたばかりの紀藤ひろこ。ややストレートに書きすぎた分、慣れたミステリファンなら事件の背景がある程度読めてしまうだろうが、事件の背景や構成にトリック、交通事故の鑑定も含め、説得力はなかなかのものである。

小早川がひろこに惹かれていく過程の描写が少ないところが弱点ではあるが、ひろこが小早川を拒否する背景なども含め、ミステリと恋愛ものを絡めた作品としてはそれなりに上手く融合できた方ではないだろうか。

達者な仕上がりであり、完成度も高い。その分新人らしさがないところもあるが、それを欠点と言ってしまうのは、この作品に対しては酷だろう。横溝正史賞受賞作品の中でも上位にランキングされる一作である。

作者はこの後、『嫌われ松子の一生』がヒットして映画化・ドラマ化される。