- 作者: 松下麻理緒
- 出版社/メーカー: 角川書店
- 発売日: 2007/10
- メディア: 文庫
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第27回横溝正史ミステリ大賞・テレビ東京賞受賞作!(粗筋紹介より引用)
2007年、第27回横溝正史ミステリ大賞・テレビ東京賞受賞。同年10月、角川文庫より刊行。
作者は50代の主婦二人組のペンネーム。東京女子大学心理学科の同期卒業。2006年には松下麻利緒名義の『毒殺倶楽部(ポイズンくらぶ)』で第16回鮎川哲也賞佳作を受賞しているが、こちらは未刊行である。
主人公の川村奈緒は35歳。5年前、バイクで転倒して足を複雑骨折したフリーターの敏也に同情を誘われるうちに恋心に落ち、退院後アパートに転がり込んできた敏也と結婚。ただし敏也はただのヒモでしかなく、貯金を食いつぶされたうえに部屋にあった金目のものをすべて売り払って逃げていった。奈緒は看護師を辞めて部屋を払い、一代で20億の資産を築いた鬼沢丈太郎の住み込み看護師となる。長女・田上京子はブランドやホストに金をつぎ込んで借金をしており、次女・鬼沢洋子は独身で売れない絵描き、同居する長男・淳一は気が弱くて優柔不断なため会社の跡継ぎ候補からは外され、妻の美恵子はおどおどするばかり、しかも高校生の一人息子・宏は引きこもりといった状態。さらに妾の息子でほとんど遊び人の西山恵太も家に出入りする。古くからいる家政婦・浜田よし子はおしゃべり好き。融通効かない性格の奈緒はワンマンで我儘な丈太郎の反論にも耳を貸さず、一途に丈太郎の病気を治そうとする。いつしか丈太郎は奈緒の言うことを聞くようになり、そして結婚を申し込む。
いやー、どこにでもあるような設定といってしまっても言い過ぎではないだろう(こういう時にパッとそのような小説のタイトルが出てこないところに、自分が年を取ったなあと思ってしまうのだけれども)。ただまあ、登場人物の心情はそれなり細かく書かれているので、読んでいて退屈はしない。人物像が浮かんでこない点については困ったものだったが。それにしても、物語の展開もテンプレート過ぎるというのはどうにかならなかったのだろうか。それなりの完成度とはいえるだろうが、新人賞の応募作品としてはあまりにも弱いだろう。テレビドラマ化するにはちょうど良い内容と登場人物数だったのかもしれないが。奈緒の結婚をめぐる最後の話だが、本当に可能なのだろうか。普通は受け付けてくれないと思うのだが。
奈緒の異常なまでの綺麗好きという設定や奈緒と恵太の契約など、うまく使われていなかった箇所が一部あったのは残念。
物語の最後の方は丈太郎が花見の席で奈緒を妻として紹介する前に死亡し、警察が介入する。落ち着くところへ落ち着いたのはよいのだが、もう少し書き込むことも可能だっただろう。他の人間の心情が曖昧になったのはもったいなかった。
現代的な味付けはされているものの、ミステリのストーリーとしては恐ろしく古い。その後の伸び代が期待できない作家の誕生、というイメージの作品だった。