平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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深堀骨『アマチャ・ズルチャ 柴刈天神前風土記』(早川書房 ハヤカワSFシリーズJコレクション)

アマチャ・ズルチャ 柴刈天神前風土記 (ハヤカワSFシリーズ・Jコレクション)

アマチャ・ズルチャ 柴刈天神前風土記 (ハヤカワSFシリーズ・Jコレクション)

その街では、謎の奇病「バフ熱」に冒された男が食用洗濯鋏に余勢を捧げ、「蚯蚓、赤ん坊、あるいは砂糖水の沼」の三面記事ほどに陳腐な溜息を吐くコインロッカーがあった。しかしときには、加藤剛をこよなく愛する諜報員が「隠密行動」を展開し、国際謀略に巻き込まれた茸学の権威「若松岩松教授のかくも驚くべき冒険」が繰り広げられる街。謎の物体「飛び小母さん」が目撃者たちの人生にささやかな足跡を残し、とある人妻とマンホールが哀しき「愛の陥穽」に墜ちたのもまた、この街の片隅だった。あるいはまた、「トップレス獅子舞考」が試みられた風俗発祥の地、江戸幕府を揺るがした「鍋奉行」暗躍で歴史に刻まれる街――そう、柴刈天神前。このありふれた街と人に注がれた真摯な眼差しと洞察をもとに、現代文学から隔絶した孤高の筆が踊り叫ぶ、愛と浪漫と奇跡の8篇。(粗筋紹介より引用)

1992年に「蚯蚓、赤ん坊、あるいは砂糖水の沼」が都筑道夫小池真理子両氏の絶賛を浴び、第3回ハヤカワ・ミステリ・コンテストに佳作入選。その後、「ミステリマガジン」「SFマガジン」に掲載された短編に、書き下ろしを加えて2003年に刊行された処女作品集。



新刊で買って、今頃読む。いつものことである。

東京にいた頃、この作者とはそれなりにお会いしていた。作者ご本人が不思議な人だから、書くものも不思議ではあったが、ミステリマガジンのコンテスト受賞作は全く覚えていなかった。多分最初に読んだとき、そのあまりもの奇天烈さに頭がおかしくなったので、慌てて記憶をデリートしたに違いない。

こうしてまとめて読むと、本当にわけがわからない感性なのである。それでも、読んでいくうちに不思議な魅力に引きずり込まれていく恐ろしさがある。なんかまあ、くさやを蟻地獄の巣の近くで焼かれているようなものだ。この感覚破戒を引き起こす世界観が凄まじい。いったいどこをどうやったら、こんな事を考えつくのだろう。出鱈目の局地にありながら、不思議と調和がとれているのはなぜなんだ。

理性を失いたくないのなら、読まない方がいいですよ、といってしまいたくなる作品集。