平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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ジョン・ロード『見えない凶器』(国書刊行会 世界探偵小説全集7)

見えない凶器 世界探偵小説全集(7)

見えない凶器 世界探偵小説全集(7)

帰宅早々、予期せぬ伯父の来訪をきかされたソーンバラ医師は、洗面室に入った伯父に声をかけたが返事はなかった。ただならぬ気配に胸騒ぎを感じた医師が、居合わせていた警官とともにドアを破ると、伯父は頭部を打ち割られ倒れていた。室内に凶器らしきものはなく、ひとつしかない窓は環視のもとにあった。密室状況下、犯人は如何にして出入りしたのか、また如何なる凶器が用いられたのか。犯行手段が解明できないまま事件は迷宮入りと見えたが……。科学者探偵ブリーストリー博士の名推理。(粗筋紹介より引用)

1938年、発表。1996年6月、邦訳刊行。



多作家、ジョン・ロードの初期から中期にかけての作品。解説を読んでびっくりしたのは、本格ミステリを140冊(ジョン・ロード名義77作、マイルズ・バートン名義63作)も書いていること。よくぞまあそれだけ書けるもんだ。人気作家だったことの証拠だな。邦訳は『プレード街の殺人』ぐらいしか容易に手に入らなかったから、日本では全然評価されていないようだけれど、もしかしたら埋もれた名作があるかもしれない。

本作品は二部構成。「第一部 アダミンスターの事件」。遺産が入るという点で、義理の甥(医師の妻であるベティが伯父と血がつながっている)であるソーンバラ医師に目を付けられるのは明々白々。しかも友人が少ない人物で、他に動機を持つ人物がいないことから、ほとんどの人はソーンバラ医師が犯人だと予想するが、肝心の凶器が見つからず、密室で犯行方法がわからないから逮捕できない。第一部はスコットランド・ヤードのジミー・ワグホーン警部が地道な捜査を続けるが、犯行方法が掴めず、証拠も見つからずでとうとう逮捕できない。そして「第二部 死がチェヴァリー街を訪れる」で別の人物が二酸化炭素による酸欠で事故死したとの報告を受け、事態は大きく動き出す。

第一の事件だが、凶器が思い浮かばない方が不思議。ミステリファンなら、ああ、これは、とすぐに思いつくだろう。ストーリーも、地道な捜査が続くだけなのだが、これが意外と面白い。第二部になってようやくブリーストリー博士が出てきて、最後は一気呵成の推理を繰り広げるのだが、そこに至るまでがこれがまた尋問と捜査ばかりで退屈そうに見えるのだが、読んでいると引きこまれる。彼の推理によって事件が解き明かされるのだが、第一の事件は先に書いた通りであるため、「見えない凶器」のタイトルが泣くし(執筆当時の年代も考慮すべきかもしれないが)、第二の事件は予想通り殺人事件なのだが、この殺人方法も少々突飛なもの。そんな単純にうまくいくかね、と言いたくなる。まあ、それはともかく、推理は難しいだろうが、トリックを聞かせてもびっくりするようなものではない。しかし、動機にはびっくりした。なるほど、第一の事件と第二の事件はこう絡んでくるのか、とここは素直に感心。これだけでも、元が取れた気がした。

事件が起きて、謎があって、捜査して、推理して、解決。単純にそれだけで、登場人物にロマンスがあるわけでもなく、風景描写が優れているとも思えない。まさに「推理」するための推理小説である。けれど読み終わって、満足しました、これは。日本人って、こういう地道な刑事もの(というとちょっと違うのだが)好きだよね、きっと。なんで当時もっと訳されなかったのだろう。多作ということが敬遠されたかな。もう何冊か読んでみたいと思わせる作家だったけれどね、これを読む限りでは。