平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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馬伯庸『両京十五日 2: 天命』(ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

 宿敵の白蓮教徒・梁興甫によって分断されてしまった皇太子・朱瞻基一行。攫われた呉定縁を救出すべく朱瞻基は一計を案じるが、予想だにしない過酷な危機が彼を襲う。一方、呉定縁の前についに姿を現した白蓮教徒の指導者は、衝撃的な真相を語り始める。明王朝の存亡が決まるまでに猶予は残り七日。朱瞻基の大義、于謙の策謀、呉定縁の運命、蘇荊渓の秘密……。彼らはそれぞれの天命を背負い、最終目的である北京・紫禁城へと向かっていく――。かつてない興奮と衝撃が訪れる、華文冒険小説の傑作、万感の完結。(粗筋紹介より引用)
 2020年、発表。2024年3月、邦訳刊行。

 ポケミス2000番特別作品。『両京十五日 1: 凶兆』に続く2か月連続刊行の大作完結編。
 前巻で分断された朱瞻基一行。使命がありながらも友人の救出を優先する朱瞻基、義を重んじ王の身を優先する于謙。この実在の人物2人に加え、衝撃の過去と運命が明らかになる呉定縁、そして朱瞻基と呉定縁に想われる蘇荊渓。主要登場人物4人に加え、白蓮教徒の作葉何や梁興甫などの脇役もその言葉と行動で強烈な印象を読者に与える。
 絡み合う過去と運命。隠された多くの秘密。対峙する思惑。剥き出しになる王と権力への執着。そして一日一日を生き延びようとする民衆。様々な要素がぶつかり合い、波乱万丈の歴史冒険浪漫が、ここに完成した。
 女性登場人物の思惑と行動が色濃く出ているのも、本作の特徴である。「義」や「考」だけではない女性ならではの考え方は、この冒険小説の面白さに、絶妙なインパクトを与えてくれる。
 解説の細谷正充が書いている通り、ミステリの要素(冒険小説もミステリだろうが、ここでは謎解きの要素と私は捉えた)が彩られていることも、本作の面白さの一つ。冒頭で呉定縁が地震の事故に見えた死体が殺人であることを見抜くが、それ以外にもミステリの要素が含まれている。すべての真相が明らかになるラストは、作者の会心の出来だろう。
 「華文冒険小説の傑作」という言葉に嘘偽りはなかった。個人的には今のところ2024年のベスト。読めて満足です。