平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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矢作俊彦『ららら科學の子』(文春文庫)

ららら科學の子 (文春文庫)

ららら科學の子 (文春文庫)

  • 作者:矢作 俊彦
  • 発売日: 2006/10/06
  • メディア: 文庫
 

  男は殺人未遂に問われ、中国に密航した。文化大革命下放をへて帰還した「彼」は30年ぶりの日本に何を見たのか。携帯電話に戸惑い、不思議な女子高生に付きまとわれ、変貌した街並をひたすら彷徨する。1968年の『今』から未来世紀の東京へ――。30年の時を超え50歳の少年は二本の足で飛翔する。覚醒の時が訪れるのを信じて。(粗筋紹介より引用)
 『文學界』連載。2003年9月、文藝春秋より単行本刊行。2004年、第17回三島由紀夫賞受賞。2006年10月、文庫化。

 

 1968年、大学生だった男は学生運動に加わり、学生会館の非常階段を上がってきたところに金庫を落とした殺人未遂の罪で指名手配され、そのまま誘われて中国に渡る。南の比較的温暖な土地へ送られ、農家として生きる。結婚し、そして妻が働きに出ていったまま帰らず、男は蛇頭接触して30年ぶりに日本に帰り、全共闘時代の友人の世話になる。
 浦島太郎が現代にいたら、みたいな感じの話だが、どちらかといえば刑務所に長くつながれていた人物が釈放されたら全然違っていたというイメージの方が強い。当時の日本はこうだった、といったノスタルジーと家族への想い、そして彼が中国で過ごしてきた生活が交差して、非常に読みづらい。
 ちょっと変わった少女がまとわりついたり、行方のしれない妹探しといったアクセントはあるものの、自分の心の中での試行錯誤の繰り返しで、なんとももどかしい。何しに日本に戻ってきたんだ、と突っ込みたくなるのだが、30年ぶりだとそんなものなのかもしれない。
 表題はもちろん『鉄腕アトム』のアニメ主題歌だが、主人公は人類のために太陽に飛び込むというアニメのラストが気に入らない。何だかなあという感じなんだが。
 もっと短くてもいいんじゃない、というのが正直なところ。読んでいてじれったいだけ。