平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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方丈貴恵『少女には向かない完全犯罪』(講談社)

 なにもできない二人が、逃げ、考え、罠にかける! 頭脳戦の楽しみに満ちた爽快な復讐譚!
 黒羽烏由宇は、ビルから墜落し死につつあった。臨死体験のさなか、あと七日で消滅する幽霊となった彼は、両親を殺された少女・音葉に出会う。彼女は、出会い頭に彼に斧を叩き込んで、言う。「確かに、幽霊も子供も一人じゃ何もできないよ。でも、私たちが力を合わせれば、大人の誰にもできないことがやれると思わない?」
 天井に足跡の残る殺人、閉じ込められた第一発見者、犯人はこの町にいる。(帯より引用)
 2024年8月、書下ろし刊行。

 ホワイトデー。完全犯罪請負人の黒羽は、経営する喫茶店が入っている六階建てビルの屋上から突き落とされて重態となる。4ヶ月後、幽霊の状態の黒羽は小学6年生の三井音葉に出会い、両親の復讐のための犯人捜しを依頼される。両親は4ヶ月前、毒を飲まされ、遺体を異様な状態で飾り付けられて殺された。遺体のあった空き家の周りの泥には両親の足跡だけで犯人の足跡がなかった。そして空き家の天井には父の靴跡が着いていた。両親は3月15日、0時に会う約束をしていた黒羽の客だった。
 方丈貴恵の新作は小学生と幽霊のコンビによる復讐劇。黒羽は限られた7日間で報復に必要な知識と技術を音葉に伝授し、報復を成功に導くと約束する。
 幽霊が探偵役になるのは過去にもあるミステリだが、少女と組んでの復讐劇というのが面白い。黒羽が逃走資金として隠していた軍資金や武器の入手、そして自らの伝手を生かした情報入手も面白いが、幽霊ならではの情報入手、そして音葉が自ら入手する情報が交錯するところは読みどころ。
 この作品には、入手した情報と現場に残された条件から推理して自らを殺そうとした犯人を導き出すロジックの面白さがある。両親殺害の足跡のトリックやダイイングメッセージといったトリックの活用の面白さがある。さらに7日間と限られたタイムリミットサスペンスの面白さがある。そして黒羽と音葉の心の触れ合いがある。さらに、完全犯罪請負人の過去、犯人との追走劇、どんでん返しの連続が続く予想外の展開が繰り広げられる。様々な要素をこれだけぶち込んで、それが交通渋滞せず面白く読めるというのはお見事といってよい。
 ユーモアとシリアスを交えながら、最後まで読者の目を離さない物語作りに感動。さらにフーダニット、フワイダニットまで盛り込んだ本格ミステリとして仕上げたのだから、脱帽である。文句なしの、今年のミステリベスト候補である。