ヴァージニア州の高校で教師が銃撃され、容疑者の黒人青年が白人保安官補に射殺された。人種対立の残る町に衝撃が走るなか、元FBI捜査官の黒人保安官タイタスは捜査を開始する。容疑者は銃を捨てるよう説得するタイタスに奇妙な言葉を残していたのだ。「先生の携帯を見て」と。被害者の携帯電話を探ると、そこには彼と“狼”のマスクを被った男たちによる残忍な殺人が記録されていた――。(粗筋紹介より引用)
2023年、アメリカで発表。2024年5月、邦訳刊行。
前作に引き続き、新訳を手に取る。
今回の主人公は、元FBI捜査官の黒人保安官、タイタス・クラウン。解説によると、長編デビュー作”My Darkest Prayer”は葬儀社で働く主人公が殺人事件の調査を依頼されて社会の暗部に分け入るハードボイルド。二作目『黒き曠野の果て』は、強盗の走り屋家業から足を洗った男が犯罪に巻き込まれていく犯罪小説。そして前作『頬に哀しみを刻め』は惨殺されたゲイカップルの父親ふたりによる復讐譚。そして本作は、ヴァージニア州チャロン郡(架空)保安官が連続殺人犯を追う警察小説である。
作者のすごいところは、どのシーンでも見せ場を作るところ。そして印象深いセリフと綿密な描写により、そのシーンが脳内に再生されるところである。本作もストーリーそのものはオーソドックスなのに、全く古臭さを感じさせずに読ませるのだから大したものである。それに結末に向けての怒涛の展開は、ページを捲る手が止められなくなること、間違いなし。
なんといっても、タイタスがいい。アフリカ系アメリカ人で、ヴァージニア大学を首席で卒業。コロンビアに行き、FBIで10年務めた。父親の看病を理由に故郷へ戻り、保安官に立候補して選ばれる。順法精神に富み、白人も黒人も公平に扱う。南部の町、チャロン郡はいまだに白人と黒人の人種対立が残っている。FBIを辞めることとなった過去を背負い、それでいて法を守ることを優先し、弱者に寄り添って捜査に当たる。さらに父親、弟、新旧の恋人、部下、群の対立者などが物語を彩り、複雑化し、そしてタイタスの苦悩をより濃くしていく。
一作、一作と主人公を変え、アメリカの深層に澱んでいる暴力と憎悪の世界をよくぞここまで書けるものだと感心してしまう。前作の暴力衝動がちょっとしんどかった分、本作の方が個人的には好み。
