平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

漂泊旦那の日記です。本の感想とサイト更新情報が中心です。偶に雑談など。

ペトロニーユ・ロスタニャ『あんたを殺したかった』(ハーパーBOOKS)

 男を殺し、死体を焼いたと言って若い女が出頭してきた。レイプされそうになり、反撃したという。ヴェルサイユ警察のドゥギール警視は“被疑者”ローラの自白に従い捜査を開始するが、死体はおろか犯罪の形跡すら見つからない。正当防衛か、冷酷な計画殺人か? 手がかりは全て教えた――ローラはそう言って黙秘するが、別の被害者を示唆する証拠が新たに発見され……。フランス発の話題作!(粗筋紹介より引用)
 2022年、フランスで発表。同年、コニャック・ミステリー大賞受賞。2024年8月、邦訳刊行。

 作者は1980年生まれ。ニース出身。上海とドバイで10年間企業のマーケティングに関わった後、リヨンに在住。2013年、"La fée noire"を自費出版。2015年から創作活動に専念。本書は6作品目。
 過去に犯罪歴があるも、今は真面目にレストランのウェイトレスをしていたはずの24歳、ローラ・テュレルが出頭。喫茶店の常連であり、週1回家政婦として働いていた資産家で不動産エージェントである55歳のブリュノ・ドゥロネに、仕事中にレイプされそうになり反撃、殺してしまったのでドゥロネの屋敷の庭で焼いてしまった。ただしそれは6週間前の出来事だという。ローラを聴取したヴェルサイユ警察のダミアン・ドゥギール警視と右腕であるジョナタン・ピジョン警部は部下とともに捜査を始めるも、死体どころか犯罪の形跡すら見当たらない。しかしドゥロネは、確かに6週間前から誰もみかけていない。ローラはその後、黙秘。ところが捜査中に別の事件が絡んでくる。
 本屋で見かけて、衝動的に購入。こういう時は割と面白いのを引き当てるんだが……。
 合間でローラの独白が入り、ローラが何かを計画していることがわかるのだが、それ以外は主にドゥギール警視を中心とした警察の捜査が描かれる。これって警察小説、と思うぐらい具体的な操作手順が描かれており、フランスの捜査手順を知るには最適かもしれない。日本の警察みたいに捜査本部の大広間で寝るなんてこともないし、指揮するドゥギール警視も夜中は愛する妻のステファニーの寝顔を見て、生まれたばかりのレオの世話をしている。しかし途中で意外な情報が舞い込み、捜査は思いもよらぬ方向へ流れてゆく。この押し引きが巧い。行き詰まる捜査と、意外な真実と新たな謎が交互に出てきて話が進むので、読者を飽きさせない。余計な修飾やわざとらしい一人語りもないので、スピーディーな展開を面白く読むことができる。
 ただ、読者を予想外に驚かせる展開がないので、サプライズの点が今一つ。ちょっと明け透けだったんじゃないかな、後半のストーリー展開が。最後はいかにもフランスの犯罪小説らしい終わり方だな、としか思えず、帯にある「ラスト10頁であなたも驚愕する」ことにならなかったのが非常に残念であった。手堅くまとまり過ぎちゃったと言うか。とはいえ、どんでん返しばかりをされてもかえって引いてしまうし、そのさじ加減が難しいところなのかもしれない。
 確かに読みだしたら止まらなかったし、面白かったんだけど、そこ止まり。よくできている佳作だとは思ったけれど、もう一つスパイスが欲しかった。