平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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保科昌彦『相続人』(角川ホラー文庫)

相続人 (角川ホラー文庫)

相続人 (角川ホラー文庫)

スポーツ紙の記者、牧野文哉は母校・東学大のアメフト部の試合取材中に美しい女性記者、北川沙織と出会い心惹かれる。しかし、その夜、東学大のアメフト部員が謎の事故死を遂げたのをきっかけに、主要なメンバーが次々と変死していく。なぜかその死の背後には、常に沙織の影がちらついているのだった。事件に興味を抱き、独自に調査を開始した牧野だったが……。人間の「罪と罰」を問う、ホラーミステリーの大作! 第10回日本ホラー小説大賞長編賞受賞作。(粗筋紹介より引用)

2003年、第10回日本ホラー小説大賞長編賞受賞。応募時のタイトルは『怨讐の相続人』。加筆修正のうえ、2003年11月、刊行。



過去に殺された幽霊が、加害者に復讐するというのはよくある話。復讐者が対象本人ではなく、対象の子供を狙うというのもよくある話。そういうこともあってか、復讐する側、される側にちょっとした捻りを入れているのが、本書の特徴なのだろう。復讐される側にも色々と込み入った事情がある分、物語が複雑になっている。ただその捻りのせいで、犯人捜しに重点が置かれてしまったところがあるので、ホラーとしてはマイナスになっているだろう。

また、復讐する側の規則性がないので、後味が悪い物になっている。加害者の子供を狙うというのはわかるが、子供がいないからといって教え子を狙うという発想がよくわからないし、しかもこの相手だけ4人狙うという理由も貧弱。復讐する側に法則なんか求めちゃいけないのだろうが、理不尽すぎるというか、いい加減すぎるというか。結局幽霊本人がやりたいようにやっているとしか見えないため、復讐する側への感情移入が全くできない。この手の作品としては大いなるマイナスだろう。幽霊側の能力がよくわからない点も、ご都合主義にしか見えなかった。

選評でもあるように、物語を読ませる力は持っている。テンポもよいし、場面の切替も上手い。結局、小説力だけで長編賞を受賞している気がする。逆に言えば、面白い物語を作ることができれば、一気に人気作家になる可能性は秘めているわけだ。