平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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フレデリック・フォーサイス『ネゴシエイター』上下(角川文庫)

 石油資源は確実にあと数年で枯渇する────モスクワとヒューストンで、二人の男がその不吉な予見に怯えていた。
 彼らの不安に追い打ちをかけるのが米ソの大幅な兵器削減条約であった。もし批准されれば軍と産業界の一部にとって痛烈な打撃となる。
 二人の男、ソ連国防軍参謀長と、テキサスの石油王は、それぞれ独自の方法でひそかに行動を開始した。
 その頃、合衆国大統領子息が何者かに拉致されるという事件が発生した。
 モスクワとヒューストンで芽生えた陰謀が、スペインの田舎町に引退したはずの交渉人を人質解放の任務へ引き戻すこととなる。(上巻粗筋紹介より引用)
 アメリカ兵器産業界の大物と石油王による陰謀が始動した。サウジアラビアの王政転覆、そして米大統領の政権追い落としが狙いである。大統領の子息誘拐事件はその発端に過ぎなかった。米英両国の危機管理体制も、周到な誘拐犯にただ翻弄されるのみ。その背後にひそむ真の意図に気づいた者は皆無だった。
 交渉人クインは、混迷する人質救出作戦に秘術を尽くし、ついに突破口をひらいた。そのとき、まったく意外な悲劇が発生する────。
 常に世界のエンターテインメント界をリードしてきた巨匠、フォーサイスが、綿密な取材を基に書きあげたベストセラー長編。(下巻粗筋紹介より引用)
 1989年5月、日・英・米同時発売。日本では角川書店より刊行。1991年3月、角川文庫化。

 フォーサイスの大ベストセラー作品。オックスフォードに留学しているアメリカ大統領の一人息子が誘拐されるというショッキングな作品。元ロイズ系列会社で交渉人の仕事をしていたクインが、犯人たちとの交渉に当たる。
 綿密な取材と構想力による物語の巧さはさすが。エンターテイメントとしては十分に楽しめる。ただ、黒幕こそ表に出てこないものの、事件を起こした背景などはほぼ最初から出ている。そのため、事件を企んだのは誰かというサスペンス要素が全くなく、迫力に欠けるのは残念。それに、クインが犯人を探し当てるのがスムーズすぎるのも引っ掛かる。アメリカ政府にも、誰がリークしたかぐらい調べろよと言いたい。
 フォーサイスの過去の作品と比べると、エンタメに軸を寄せすぎた感はある。面白かったことは面白かったのだが。