平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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吉田修一『怒り』上下(中公文庫)

 若い夫婦が自宅で惨殺され、現場には「怒」という血文字が残されていた。犯人は山神一也、二十七歳と判明するが、その行方は杳として知れず捜査は難航していた。そして事件から一年後の夏――。房総の港町で働く槇洋平・愛子親子、大手企業に勤めるゲイの藤田優馬、沖縄の離島で母と暮らす小宮山泉の前に、身元不詳の三人の男が現れた。(上巻粗筋紹介より引用)
 山神一也は整形手術を受け逃亡している、と警察は発表した。洋平は一緒に働く田代が偽名だと知り、優馬は同居を始めた直人が女といるところを目撃し、泉は気に掛けていた田中が住む無人島であるものを見てしまう。日常をともに過ごす相手に対し芽生える疑い。三人のなかに、山神はいるのか? 犯人を追う刑事が見た衝撃の結末とは!(下巻粗筋紹介より引用)
 『読売新聞』朝刊に2012年10月29日~2013年10月19日連載。加筆修正のうえ、2014年1月、中央公論新社より単行本刊行。2016年1月、文庫化。

 殺人事件を起こし、整形して逃亡した犯人。一方、房総、東京、沖縄の離島でそれぞれが出会う前歴不詳の3人の男。3人の中に犯人はいるのか。
 作者の吉田修一が、市川市英国人女性英会話講師殺人事件にヒントを得て執筆した作品。事件名を言ってもピンと来ないかもしれないが、犯人の市橋達也という名前を聞くとアッと言う人もいるだろう。
 読んでいるときは面白かった。誰が犯人なのかという興味もあるが、それぞれの舞台で繰り広げられる人間ドラマも面白かった。山神を追いかける八王子警察署の南條邦久警部補と北見壮介巡査部長も興味深い。それなのに、なんなんですか、この結末は。
 一つ一つの物語は面白かったのに、結局バラバラなまま終わっちゃう。まあ、これでそれぞれが繋がったら却ってわざとらしいけれど。最後、何もわからないまま終わっているのは、読者が想像してくださいってことだろうか。北見と恋人の話っていったい何だったんだ。
 申し訳ないけれど、このもやもやを与えた作者に「怒り」を感じてしまう。物語を思い出すたびに感じるこの不満、やってられない。