平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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真保裕一『誘拐の果実』上下(集英社文庫)

誘拐の果実 (上) (集英社文庫)

誘拐の果実 (上) (集英社文庫)

誘拐の果実 (下) (集英社文庫)

誘拐の果実 (下) (集英社文庫)

病院長の孫娘が誘拐された。犯人からは、人質の黒髪と、前代未聞の要求が突きつけられる。身代金代わりに、入院中の患者を殺せ、というのだ。しかもその人物は、病院のスポンサーでもあり、政財界を巻き込んだ疑獄事件で裁判を待つ被告人だった。悩む家族、後手に回る警察。人質救出の極秘作戦が病院内で幕を開ける。そこに第二の事件が――。(上巻粗筋より引用)

身代金の代わりに「殺人」を求める異常な事件に続いて起こった第二の誘拐。今度の人質は19歳の大学生だった。犯人の周到な計画に翻弄される警察。試練を受け、新たな歩みを始める家族。謎は深まり、やがて恐るべき秘密が浮かびあがる……。スリリングな展開、迫真の描写。そして感動のラストへ! 最後に誘拐の果実を手にする者は誰なのか。(下巻粗筋より引用)

2002年11月、集英社より書き下ろし刊行。2005年11月、文庫化。



元々は1990年、第36回江戸川乱歩賞に応募して最終候補作に残った『代償』を書き直した作品。乱歩賞が上限550枚、本作が1200枚だから、相当量書き足している勘定になる。作者自身、『代償』は一発ネタで最終候補作に残ったと言っているから、この「前代未聞の要求」がその一発ネタだったのだろう。

「第一章 十七歳の誘拐」では17歳である病院長の孫娘が誘拐され、身代金の代わりに、病院のスポンサーで、株譲渡事件で起訴されて入院中の会社会長を殺害しろと要求。「第二章 十九歳の誘拐」では、駅前にある本屋の孫息子である19歳の青年が誘拐され、7000万円分の株券を身代金として要求。「第三章 誘拐の接点」で、二つの誘拐の接点が明かされる。そして「第四章 誘拐の果実」ですべてが明らかになる。

身代金の代わりに特定人物の殺人を要求する、というのは変わった設定のように見えるが、実際のところ、人質を取って代わりに殺人を犯させたり物を盗ませるなどはサスペンスでよくある話なので、それほど珍しいというわけでもない。とはいえ、二つの誘拐を結びつけたアイディアは面白いものだし、その真相も意外なところに落ち着いて心地よい読後感を与えてくれる。確かにこのストーリーを550枚にまとめるのは、難しい。

ただ、警察の捜査の部分がやや冗長な感があった。尋問のやり取りなどを減らし、もうちょっと浮かび上がった事実だけを書き連ねた方が、テーマがより明確になったんじゃないかと思う。

書下ろしということもあり、作者が書きたいと思ったことをとにかく書き連ねたのだろう。第一部の誘拐を通して、家族が関係を見直すところもなかなかだと思うが、テーマを盛りすぎた気もしないではない。第三章と四章は、一つにまとめられただろうし、第二章ももっと短くできた気がする。面白いけれど、ちょっとくどさが残った仕上がりだった。