平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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フレデリック・フォーサイス『売国奴の持参金』(角川文庫)

 引退を勧告されたマクレディの聴聞会が再開された。ソ連軍将校団がイギリス軍の演習に招待された時のことだ。演習は、それぞれの思惑を秘めながらも穏やかに進んでいた。ところが一人のソ連将校が逃亡し、アメリカへの亡命を申し入れた。彼の正体はKGB大佐。アメリカは亡命を受け入れた。亡命者は多くの情報をもたらした。CIAはその情報の裏付けをとり、彼を信用し始めていた。だが、マクレディは何か腑に落ちなかった。亡命者の真意は何なのか、スパイ対スパイの息詰まる駆け引きが始まる――。“最後のスパイ小説”マクレディ・シリーズ四部作第二弾。(粗筋紹介より引用)
 1991年、イギリスで発表。1991年10月、角川書店より邦訳単行本刊行。1993年1月、文庫化。

 イギリス秘密情報機関SISのベテラン・エージェント、DDPS(「欺瞞、逆情報及び心理工作」部)部長、通称騙し屋ことサム・マクレディ四部作の第二作。1986年、ピョートル・アレクサーンドロヴィチ・オルローフKGB大佐がアメリカに亡命した事件である。オルローフはCIAに数々の情報をもたらし、CIAの特別プロジェクト部長であるキャルヴィン・ベイリーやその部下のジョー・ロスはオルローフを徐々に信じるようになるが、マクレディはある疑問点を抱く。
 オルローフ、ロス、マクレディというスパイたちによる高度な心理戦。ゴルバチョフペレストロイカ、キム・ウィルビーなど過去のスパイたちといった実在世界を織り交ぜ、ソ連アメリカ、イギリスという大国の思惑も混じり、虚々実々の駆け引きが繰り広げられる。
 一行も見逃せない、手に汗握る攻防。供述が中心であり動きそのものは少ないが、一つ間違えると地獄へ落ちてしまうという緊迫感がたまらない。これは見事としか言いようがない。第一部より好きだな、自分は。
 フォーサイスってすごいと思わせる一冊。下手に行動するよりも、スパイの世界の恐ろしさを教えてくれる。