平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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孫沁文『厳冬之棺』(ハヤカワ・ミステリ文庫)

 湖のほとりに建つ(ルー)家の半地下の貯蔵室で、当主陸仁(ルー・レン)の遺体が発見された。この地下小屋は大雨により数日間水没していたにもかかわらず、その床は乾いており、誰かが外から侵入した形跡はない。まさに完全な密室状態だった。そして殺害現場には、なぜか嬰児のへその緒が。梁良(リャン・リャン)刑事は直ちに捜査を開始するが、それを嘲笑うかのように新たな密室殺人が陸家を襲う……。華文ミステリ界の「密室の王」が放つ、本格謎解き小説。(粗筋紹介より引用)
 2018年、中国で発表。2023年9月、邦訳刊行。

 作者の孫沁文(スン・チンウェン)は1987年、上海生まれ。2008年、「雷雨中的密室杀人」でデビュー。2021年前に57本の短編を書き、うち44本が密室なため「密室の王」と呼ばれる。本書は著者初の長編ミステリ。
 名家での連続殺人事件。しかもすべて密室殺人。それを解くのは、人気漫画家で警察の非常勤似顔絵師であり、過去に捜査に協力して密室殺人を何度も解決したという安縝(アン・ジェン)
 大雨でほぼ水没していた半地下貯蔵室、見張りのいた室内、湖の岸辺にある空中コテージ。いずれも密室殺人が起きた現場である。しかも最後は斬首されている。しかし密室トリックについては強引そのもの。一番目の密室トリックは絶対に実現不可能。二番目は笑っちゃうしかない。三番目は、もう考えるのを止めた。
 内容が、戦後初期に本格探偵小説ブームが始まってから数年後に出されたような出涸らし感がある。そういう意味では懐かしさを感じさせるし、すんなりと読むことはできた。因習に引きずられる旧家での連続殺人という設定は懐かしさを感じたし、フーダニットの部分はそれなりに楽しめたが、だからといって絶賛できるような内容ではない。
 探偵役が人気漫画家、ヒロインが新人声優というところだけは現代っぽさを感じたかな。あざとすぎるぐらいな終わり方は、さっさと続編をかけよと言いたくなるようなもの。なのにまだ書いていないというのは、どういうことなんだろう。
 今まで読んできた華文ミステリと比べると、投稿サイトから本になったような素人っぽさを感じさせた。作者の単行本そのものが少ない理由なんじゃないかな、それが。