平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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床品美帆『431秒後の殺人 京都辻占探偵六角』(東京創元社 ミステリ・フロンティア)

 写真を撮る楽しみを教えてくれた、松原京介の不可解な死。離婚話で揉めていた彼の妻は、関与が疑われたものの、死亡時刻にはタクシーに乗っていた。どこをどう見ても、不運な事故としか考えられない状況だったが――恩人の死をその妻の仕業と確信した駆け出しカメラマンの安見直行は、祖母の助言によって六角法衣店を訪れる。店の主は代々京の辻や橋に立ち、道のさざめきから信託を受け、失せ物を見つけ出すことができるというのだ。
 直行は恩人の死亡事故を他殺と証明する証拠を探して欲しいと依頼するが、若くて不愛想な店主・六角聡明からは、けんもほろろに断られてしまう。だが、直行の撮った一枚の写真がきっかけで、六角は事件の証拠探しに協力を依頼する。
 現代のガジェットによって構成された不可能犯罪を、緻密な論証で見事に解き明かす表題作ほか全五編を収録。第十六回ミステリーズ!新人賞受賞者による出色のデビュー連作集。(粗筋紹介より引用)
 『紙魚の手帖Vol.2』(2021年12月)に掲載された表題作に書下ろし4編を加え、2022年4月、刊行。

 

 ビルの屋上で使われていたコンクリートブロックが頭の上に落ちてきて、写真館店主が死亡。不倫で離婚話が持ち上がっていた妻はタクシーに乗っていた。「第一話 431秒後の殺人」。
 人気のカプセルホテルで、襖の武将の眼が動くという噂が。大学のオカルト研究サークルの同窓生男女4人のうちの1人が、ベッドで殺された。ただその時間は、同窓生の2人と直行がすぐそばでおしゃべりをしていた。「第二話 睨み目の穴蔵の殺人」。
 夜の映画館で上映中、客の一人が殺された。しかし客はわずか数名で、誰も殺された客のそばには近寄らなかった。「第三話 眠れる映画館の殺人」。
 祟られていると騒いでいたDJがクラブでライブ中、スモークの中で襲われて重体となった。しかし犯人はどこにも見当たらない。「第四話 照明されない白刃の殺人」。
 六角法衣店が差し押さえにあった。14年前に入院先から失踪した聡明の母親が、失踪3年後に連帯保証人となっていたからだという。盲腸で入院した聡明が、母が失踪した部屋で謎を解く。「第五話 立ち消える死者の殺人」。

 

 作者は1987年生まれ。同志社大卒。2017年に「赤羽猫の怪」で第15回北区内田康夫ミステリー文学賞区長賞受賞。2018年、『レッドカサブランカ』で第28回鮎川哲也賞最終候補。同年、「ROKKAKU」で第15回ミステリーズ!新人賞最終候補。2019年、「ツマビラカ~保健室の不思議な先生~」(改題「二万人の目撃者」)で第16回ミステリーズ!新人賞受賞。本書はデビュー作。
 表題作の「431秒後の殺人」は、「ROKKAKU」を改題したもの。作者が思い入れがあったということで、こちらを先に連作短編として刊行したという。
 探偵役は六角法衣店の店主であり、失せ物探しの占いがよく当たるという六角聡明。ワトソン役は売れないカメラマンの安見直行。もっとも辻占の設定は最初だけしか関わらない。もう少し辻占の設定を生かせばよかったのにと思ってしまう。お人好しの直行が、聡明を引っ張り出すというパターンの連作だが、最後は聡明の母親の失踪事件に挑む話であり、いかにもといった感じの連作短編集には仕上がっている。いずれもハウダニットの謎解きであり、物理的なトリックが主体となっている。
 第一話は、あまりにも偶然に頼りすぎ。まあそれはまだ許せるが、犯人が捕まった証拠の方があまりにも杜撰すぎないか。ここまで見え見えの殺人方法も珍しい。実際に成功した殺人方法とのギャップがひどい。
 第二話は頭の中で情景を思い浮かべるのにちょっと時間がかかった。可もなく不可もなく。
 第三話は、トリックが大掛かりすぎ。これだけ物的証拠を残して、捕まらないはずがない。
 第四話はちょっと面白かった。他の事件と目的の事件をうまくつなげたとは思う。
 第五話は、まあうまく収まるところに収まった感じはある。偽造の部分はちょいとお粗末な気もするが。
 後半の方が面白く読めたかな。六角聡明という人物にもう少しキャラクター性を与えてほしかったと思う。殺人事件が続く連作集の割に、盛り上がりがちょっと乏しかったし、地味な展開で終わっているのも残念。長編には向かなさそうな探偵役だが、続編はあるだろうか。