平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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レイフ・GW・ペーション『許されざる者』(創元推理文庫)

 国家犯罪捜査局の元凄腕長官ラーシュ・マッティン・ヨハンソン。脳梗塞で倒れ、一命はとりとめたものの、右半身に麻痺が残る。そんな彼に主治医の女性が相談をもちかけた。牧師だった父が、懺悔で25年前の未解決事件の犯人について聞いていたというのだ。9歳の少女が暴行の上殺害された事件。だが、事件は時効になっていた。ラーシュは相棒だった元捜査官や介護士を手足に、、事件を調べ直す。犯人をみつけだし、報いを受けさせることはできるのか。スウェーデンミステリ界の重鎮による、CWA賞、ガラスの鍵賞など5冠に輝く究極の警察小説。(粗筋紹介より引用)
 2010年発表。同年、スウェーデン推理作家アカデミー最優秀長編賞受賞。同年、 BMFプラークスウェーデン書店アシスタント協会が授与する文学賞)受賞。2011年、ガラスの鍵賞受賞。同年、パレ・ローゼンクランツ賞(デンマーク語で出版された年間最優秀犯罪小説に送られる賞)受賞。2017年、CWAインターナショナル・ダガー賞受賞。2018年2月、邦訳刊行。

 

 作者のレイフ・GW(Gustav Willy)・ペーションはスウェーデンの犯罪学者、小説家。犯罪学教授としてスウェーデン国家警察委員会の顧問を務めていた。犯罪事件のコメンテーターとして、テレビや新聞に定期的に出演していた。スウェーデンミステリ界の重鎮で、1978年に警察小説『グリスフェステン』でデビュー。ラーシュ・マッティン・ヨハンソンと、ストックホルム県警捜査課の捜査官であるポー・ヤーネブリングが事件の捜査にあたる。
 他に、25年前の未解決事件であるヤスミン事件の当時の捜査責任者であるエーヴェルト・ベックストレームは、チビでデブで怠け者で差別主義者という最低な男だが、なぜか事件を解決するという主人公として数冊のミステリに登場している。検察官として登場するアンナ・ホルトは、女性刑事として活躍するシリーズがある。公安警察局本部の局長補佐として登場するリサ・マッティも、シリーズの複数の作品に登場している。これらのシリーズは、テレビドラマや映画にもなっている。もしかしたら他のキャラクターも、過去作品に登場しているのかもしれない。
 本作は、長く続いたヨハンソンシリーズの最後の作品として、作者が生み出したシリーズキャラクターが総出演する話となっている。ここを知っているかどうかで、本書の印象はかなり変わってくるのではないだろうか。ただ私は解説を読むまで全く知らなかったが、それでも十分に楽しんで読むことができた。
 本書のテーマは、杉江松恋が解説の冒頭でも書いている通り、「時効が成立した事件の犯人を裁くことはできるのか」である。ヨハンソンが元相棒のヤーネブリングや彼を慕う部下、介護士のマディルダ、長兄から派遣されたロシア人の若者マキシム・マカロフ、妹婿で元公認会計士のアルフ・フルトなどの力を借り、25年前の未解決事件を追うのだが、思ったより簡単に犯人にたどり着くのはちょっと拍子抜け。この辺りは、当時の捜査責任者がエーヴェルト・ベックストレームという事実をよく知っている人ならあっさりと頷くところなのだろうか。
 ここから先の話は、個人的には不満の残るところもあるのだが、これもまた一つの道なのだろう。結構重い内容の仕上がりになっており、特に最後についてはいろいろと考えてしまった。
 結局本書は、作者の重要シリーズキャラクター引退作という位置付けの方が強い作品である。それは原題から見てもわかるだろう。読み終わってみるとちょっと長さを感じたが、読んでいる途中は丁寧なのにダレない書き方と魅力的な登場人物たちのせいか、全く気にならなかった。北欧ミステリ重鎮による力作。ただ、先にも書いたが、シリーズの最初から読んでみたかった気はする。そうすれば、登場人物たちの背景から感じ取る内容も、少しは変わったかもしれない。
 あとはお願いだが、5冠獲得というのなら、その5冠の内容をあとがきか解説かどこかで書こうよ。調べるの、面倒だったぞ。