平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

漂泊旦那の日記です。本の感想とサイト更新情報が中心です。偶に雑談など。

フェルディナント・フォン・シーラッハ『罪悪』(東京創元社)

 ふるさと祭りの最中に突発する、ブラスバンドの男たちによる集団暴行事件。秘密結社イルミナティにかぶれる男子寄宿学校生らの、“生け贄”の生徒へのいじめが引き起こす悲劇。猟奇殺人をもくろむ男を襲う突然の不運。何不自由ない暮らしを送る主婦が続ける窃盗事件。麻薬密売容疑で逮捕された孤独な老人が隠す真犯人。――弁護士の「私」は、さまざまな罪のかたちを静かに語り出す。
 刑事事件専門の弁護士が、現実の事件に材を得て描きあげた十五の異様な物語。世界各国を驚嘆せしめた傑作『犯罪』の著者による、至高の連作短篇集!(粗筋紹介より引用)
 「ふるさと祭り」「遺伝子」「イルミナティ」「子どもたち」「解剖学」「間男」「アタッシュケース」「欲求」「雪」「鍵」「寂しさ」「司法当局」「清算」「家族」「秘密」の計15編を収録。2010年、ドイツで発表。同年、ドイツCDブック賞ベスト朗読賞受賞。2012年2月邦訳、単行本刊行。

 

 刑事弁護士である作者が現実の事件を題材にした作品を集めて発表し、ベストセラーになった『犯罪』に続く第二弾。今回も実際の事件をもとに書かれている。
 掌編から短編まで15編そろっており、どれも客観的な事実をそのまま作品に投影しており、そこに登場人物や弁護士の「私」の感情が徹底的に削ぎ落されている。まるで裁判における長所を読み上げているかのようであるが、逆にそれが登場人物の内面と感情を浮かび上がらせているのだから、大したものである。
 個人的には一番長い「鍵」が面白かった。逆に「ふるさと祭り」みたいな作品は、気落ちしてしまうので読みたくない。