平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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エリー・グリフィス『見知らぬ人』(創元推理文庫)

 これは怪奇短編小説の見立て殺人なのか? ――イギリスの中等学校(セカンダリー・スクール)タルガース校の旧館は、かつてヴィクトリア朝時代の作家ホランドの邸宅だった。クレアは同校の英語教師をしながら、ホランドの研究をしている。10月のある日、クレアの親友である同僚が自宅で殺害されてしまう。遺体のそばには"地獄はからだ"という謎のメモが。それはホランドの怪奇短編に繰り返し出てくる文章だった。事件を解決する鍵は作中作に?  英国推理作家協会(CWA)賞受賞のベテラン作家が満を持して発表し、アメリカ探偵作家クラブ(MWA)賞最優秀長編賞受賞へと至った傑作ミステリ!(粗筋紹介より引用)
 2018年、イギリスで発表。2020年、アメリカ探偵作家クラブエドガー賞最優秀長編賞を受賞。2021年7月、邦訳刊行。

 

 作者はイギリスの人気ミステリ作家。1998年、本名のドメニカ・デ・ローザ名義の"The Italian Quarter"でデビュー。2009年にエリー・グリフィス名義で発表した"The Crossing Places"が好評を博し、法医考古学者ルース・ギャロウェイを探偵役に据えたこのシリーズは2021年現在13巻を重ねている。また、2014年にスタートしたエドガー・スティーヴンス警部と戦友マックス・メフィストのシリーズも好評を博している。MWAのメアリー・ヒギンズ・クラーク賞とCWAの図書館賞を受賞している。
 物語は英語教師のクレア・キャシディ、同居するクレアの15歳の娘ジョージアニュートンサセックス警察犯罪捜査課部長刑事のハービンダー・カーの3人の視点で語られている。クレアの同僚、エラ・エルフィックが殺され、ローランド・モンドメリー・ホランドの短編「見知らぬ人」に繰り返し出てくる文章のメモが残されていたという事件が発生。クレアの視点で事件が語られたと思ったら短編「見知らぬ人」の一部が差し込まれ、次はハービンダーの視点で事件がもう一度語られ、終わりに「見知らぬ人」の一部が差し込まれたら、次はジョージアの視点で事件の話が続く。そして三人の視点で交互に話が進み、視点が切り替わる直前に短編が差し込まれる。
 最初はクレアの日記からの引用で、この時はそれほど深く考えずに読んでいたのだが、ハービンダーの視点に切り替わってから事件と作中世界に引き込まれて面白くなり、ジョージアの視点で一挙に怪奇色が深まってから面白くなっていった。多重視点で物語が進むという作品はそれなりにあるが、同じ事件を三人で語らせてさらに作中作を挟むことで物語の興味をひきつけるその手法に感心した。やはり人気作家となるだけの腕と実力を持ち合わせた作者ならではの技なのだろう。
 所々で触れられる作中作の怪奇さも満足いく仕上がりであり、そして連続殺人からの解決に感心。最後は思わず膝を打ちました。見事としか言いようがない。英国ミステリの底力をまざまざと見せつけてくれました。傑作です。
 次もハービンダーが登場するとのこと。非常に楽しみである。