平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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フェルディナント・フォン・シーラッハ『犯罪』(東京創元社)

犯罪

犯罪

 

  一生愛しつづけると誓った妻を殺めた老医師。兄を救うため法廷中を騙そうとする犯罪者一家の息子。羊の目を恐れ、眼球をくり抜き続ける伯爵家の御曹司。彫像『棘を抜く少年』の棘に取り憑かれた博物館警備員。エチオピアの寒村を豊かにした心やさしき銀行強盗。――魔に魅入られ、世界の不条理に翻弄される犯罪者たち。
 弁護士の著者が現実の事件に材を得て、異様な罪を犯した人間たちの哀しさ、愛おしさを鮮やかに描く連作短篇集。ドイツでの発行部数四十五万部、世界三十二か国で翻訳、クライスト賞はじめ、数々の文学賞を受賞した圧巻の傑作!(粗筋紹介より引用)
 「フェーナー氏」「タナタ氏の茶碗」「チェロ」「ハリネズミ」「幸運」「サマータイム」「正当防衛」「緑」「棘」「愛情」「エチオピアの男」の十一編を収録。2009年、ドイツで発表。2011年、東京創元社より邦訳単行本刊行。

 

 作者はナチ党全国青少年最高指導者バルドゥール・フォン・シーラッハの孫。1994年からベルリンで刑事事件弁護士として活躍している。なお本書は映画化に伴い2012年にペーパーバック版が出版されたが、このときに作者が大幅な改定・増補を行っている。
 実の事件をたどれないようにさまざまな要素を組み合わせたり、改変したりして小説として成立させているとのこと。とはいえ、「棘」「エチオピアの男」みたいにフィクションじゃないのと思わせる作品もあるので、何が本当かどうかわからない。
 個人的には、法廷中をだまそうとした「ハリネズミ」が一番面白かった。読んでいてやりきれなくなったのは「チェロ」。なんとも悲しい姉弟の話。怖かったのは「タナタ氏の茶碗」。こういう人物を怒らせちゃあかんな。
 やはり犯罪の裏には一つのドラマがある。そんなことを再認識させる短編集の傑作だった。