平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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D・M・ディヴァイン『運命の証人』(創元推理文庫)

 法廷では、いままさに審理が始まった刑事裁判をひとりの男が他人事のように眺めていた。弁護士である男がこの場所にいるのは、六年前と数ヶ月前に起きた二件の殺人の、ほぼ有罪が確定した被告人としてであるにもかかわらず。六年前、駆け出しの事務弁護士だった男――ジョン・ブレスコットは、友人ピーターの屋敷である女性を紹介される。ノラ・ブラウン。ひと目で虜となったその美女との出会いから、彼の運命は狂っていった。四部構成の四部すべてに驚きが待つ、迫真の法廷戦と精妙な謎解きが合わさった、ディヴァイン中期の傑作本格ミステリ!(粗筋紹介より引用)
 1968年、ドミニック・ディヴァイン名義で発表。2021年5月、邦訳文庫化。

 

 著者の第七長編。時期的にいえば、一番脂の乗り切ったころになるのだろうか。ちなみに原題は"The Sleeping Tiger"。「眠れる虎」は、ピーターがブレスコットを指した言葉である。他にも意味はあるが、それは本編を読めばわかるだろう。
 第一部は、主人公であるジョン・ブレスコットが裁判を受けるところ。そして話は6年前にさかのぼる。そして最後に事件が起きる。
 第二部は、裁判の続きが書かれ、そして話は半年前にさかのぼる。そして最後に第二の事件が発生する。
 第三部は、ブレスコットの裁判が続き、運命の証人が現れ、そして裁判が終わる。
 第四部は、裁判後の話となる。
 読んでいて面白かったけれど、本格ミステリというよりは、ラブロマンス・サスペンスが色濃い作品である。一応最後に「驚きの結末」があるし、ちゃんと伏線が張られていることもわかるけれど、それでも本格ミステリ要素は薄い。詳しくは知らないけれど、作者名義を変えたのはそんなドラマチックな要素をより強くしたからじゃないか、なんてお思ってしまう。
 物語としては面白かったけれど、本格ミステリとしては物足りなかった。そういうしかないよな、これ。