平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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アンデシュ・ルースルンド & ステファン・トゥンベリ『熊と踊れ』上下(ハヤカワ・ミステリ文庫)

 凶暴な父によって崩壊した家庭で育ったレオ、フェリックス、ヴィンセントの三人の兄弟。独立した彼らは、軍の倉庫からひそかに大量の銃器を入手する。その目的とは、史上例のない銀行強盗計画を決行することだった――。連続する容赦無い襲撃。市警のブロンクス警部は、事件解決に執念を燃やすが……。はたして勝つのは兄弟か、警察か。スウェーデンを震撼させた実際の事件をモデルにした迫真の傑作。最高熱度の北欧ミステリ。(上巻粗筋紹介より引用)
緻密かつ大胆な犯行で警察を翻弄し、次々と銀行を襲撃していくレオたち。その暴力の扱い方は少年時代に父から学んだものだった。かつて彼らに何がおこったのか。そして今、父は何を思うのか――。過去と現在から語られる"家族"の物語は、轟く銃声と悲しみの叫びを伴って一気に結末へと突き進む。スウェーデン最高の人気を誇り、北欧ミステリの頂点「ガラスの鍵」賞を受賞した鬼才が、圧倒的なリアリティで描く渾身の大作。(下巻粗筋紹介より引用)
 2014年、スウェーデンで発表。2016年9月、ハヤカワ・ミステリ文庫創刊40周年記念作品として、邦訳刊行。

 

 著者の一人、アンデシュ・ルースルンドはジャーナリストの活動を経て、2004年にベリエ・ヘルストレムとの共著『制裁』でデビューし、翌年、第14回ガラスの鍵賞(最優秀北欧犯罪小説賞)受賞。本作から始まる「グレーンス警部シリーズ」がベストセラーになる。2009年に発表した同シリーズ第五作『三秒間の死角』で2011年、英国推理作家協会賞インターナショナル・ダガー受賞。
 著者のもう一人、ステファン・トゥンベリはスウェーデンの作家、シナリオライター。合作した理由は訳者のあとがきで語られるが、ここでは伏せる。
 この軍人ギャング事件については実際にスウェーデンで起きた事件であり、ブロンクス警部などは架空の人物であるし、実際の事件との犯行期間の違いなどはあるものの、事件内容については概ねそのままだという。また兄弟たちや父親との会話もほぼ実際のものだという。
 実際に兄弟たちが事件を起こす現在と、兄弟たちの過去が交互に語られる構成となっている。まずはリアルな事件描写が圧巻。さらにその事件の背景にある心理描写がすごい。緻密な事件計画と、ちょっとの狂いから計画が壊れていき、軌道修正する展開も面白い。さらにもう一つ特筆すべきなのは、犯人たちの家族の描写だろう。兄弟愛、反発する父子、そして母子。幼少のころから大人になるまで、変わらないようで変わり、変わっているようで変わらない親子関係と兄弟関係の微妙な綾が読者を惹き付ける。
 とりあえず、すごい犯罪小説を読ませてもらった。大満足。ただ、これの続編を読みたいとは思わなかったな。