平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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エヴァ・ドーラン『終着点』(創元推理文庫)

 ロンドンの集合住宅に住む女性モリーのもとへ、娘のように親しくするエラから電話がかかってくる。駆けつけると、エラのそばには死体が転がっていた。見知らぬ男に襲われ、身を守るために殺してしまったのだという。警察の介入を望まず、死体を隠すふたり。しかしその後、モリーは複数の矛盾点からエラの「正当防衛」に疑問を抱く……冒頭で事件が描かれたのち、過去へ遡る章と未来へ進む章が交互に置かれ、物語はたくらみに満ちた「始まり」と、すべてが暴かれる「終わり」に向けて疾走する。英国ミステリ界の俊英が放つ、衝撃と慟哭の傑作。(粗筋紹介より引用)
 2018年、イギリスで刊行。2024年8月、邦訳刊行。

 エヴァ・ドーランはエセックスの生まれ。コピーライターやポーカーのプレイヤーとしても活躍。2014年に"Long Way Home"でデビュー。以後、ジギッチ主任警部とフェレイラ巡査部長の男女コンビによる警察小説をシリーズ化し、計6冊執筆。本書は現時点で、唯一のノンシリーズ。
 テムズ川河畔に建つ築六十年の五階建て集合住宅〈キャッスル・ライズ〉は取り壊しが決まっていたが、数世帯がまだ立ち退きに抵抗していた。2018年3月6日、反対運動のパーティー中、女性活動家のエラは見知らぬ男に襲われ、正当防衛で殺害してしまった。エラが母親のように慕う集合住宅住人で活動家のモリーはエラの助けに応じ、死体を隠してしまう。
 この「それはこうして始まる」からエラの章は過去に遡り、モリーの章は未来へ進んでいく。モリーは本当に事故だったのかを疑い、エラは過去に何があったが少しずつ明らかになるとともに、モリーの疑問の答えも少しずつ明らかになっていく。そして「それはこうして終わる」で現在と過去が重なる。
 現在と過去が最後の方で集約される作品はそれなりに浮かぶのだが、過去が遡っていくというのは珍しい。真実を少しずつ明かしながらも遡るという書き方は、作家の側からしたら結構大変であろう。ただ読む方からしたら、少々まどろっこしいことは事実。
 それに、この構成を生かし切ったストーリーだったかというと、これも疑問。悪くはないのだが、そんなに“衝撃”はなかった。なぜかと言うと、「終わり」までが長すぎる。途中でダレてしまった。こういう構成の作品は、もっと短く、スパッと切ってほしい。アクションが少ないと、読み続けるのが大変である。
 ということで、もうちょっと盛り上がるかと思って読んでいたのだが、自分の中では今一つ。なぜか、作者にお疲れさまでした、と言いたくなるような作品ではあった。