平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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E・C・R・ロラック『曲がり角の死体』(創元推理文庫)

 豪雨の夜、ダイクス・コーナーと呼ばれる危険なカーブで発生した衝突事故。大破した車の運転席で男の死体が発見されるが、死因は一酸化炭素中毒。しかも二時間以上前に死亡していたことが判明。警察は殺人事件として捜査を始める。被害者コンヤーズは現代的なチェーンストアのオーナーで、その強引な出店計画は土地の商店主たちの反撥を招き、また私生活でも多くの問題を抱えていた。様々な疑惑が渦巻く中、事件当夜の被害者の車の軌跡を追うマクドナルド主席警部が辿り着いた真相とは……。英国探偵小説の醍醐味を満喫させるロラックの代表作。(粗筋紹介より引用)
 1940年、イギリスで発表。2015年9月、邦訳刊行。

 作者はイギリスの作家で、英国本格ミステリを代表する巨匠のひとり。70冊以上の長編を発表し、デビュー作から登場するロバート・マクドナルド主席警部がほとんどの作品で探偵役を務めている。本名イーディス・キャロライン・リヴェット。ロラック名義では20冊目、キャロル・カーナック名義も含めると25作目の長編ミステリである。
 登場人物、特に容疑者が多く、それぞれの人物造形が描き込まれているため、発端の事件の後は地道な捜査が続く。舞台も含めしっかり描き込まれているのに退屈せ卯に読めるのは、黄金時代の本格ミステリならではだろう。逆にトリックなどは書かれた時代もあって仕方ないだろうが古いと感じさせるもので、サプライズなどもあるわけではなく、今の読者からすると地味に感じるかもしれない。まあ、これが田舎町を舞台にした英国ミステリならではといってしまえばそれまでだが。
 当時の英国ミステリが好きな人にとっては懐かしさを感じるもの。その雰囲気を味わいたい人にとってはたまらないだろう。ただこの作者、読むのは二冊目だが、どれを読んでも一定レベルの楽しさを与えてくれるものの、どれを読んでもほとんど変わらないじゃないか、という気がしなくもない。こういうとき、探偵役が地味な主席警部というのは損だっただろうなと思う。これがエキセントリックな人物だったら、人物自体の面白さも加味されるのに。