平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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横溝正史『横溝正史少年小説コレクション2 迷宮の扉』(柏書房)

 没後40年、いまなお読者を魅了してやまない横溝正史の少年探偵物語を全7冊で贈るシリーズ第2弾に当たる本書には、おなじみの名探偵・金田一耕助が登場する3長篇と短篇2作を収録。
 シャム双生児として生まれてきた兄弟をめぐる一族の愛憎劇と遺産相続争いが引き起こす連続殺人を描く表題作、ダイヤの入った黄金の小箱を狙って暗躍する仮面の怪人に金田一と少年が立ち向かう『仮面城』、奇術師姿の怪老人の予告通りに起きる児童連続消失事件の謎に少年探偵たちが挑む『金色の魔術師』――いずれも活劇的展開とミステリとしての意外性が横溢した傑作長篇3作に、短篇「灯台島の怪」「黄金の花びら」を収録。大人向けミステリの金田一耕助のイメージとはまたひと味違う存在感が魅力的な一冊。
 今回も初刊時のテキストを使用、従来版でなされていた改変をオリジナルに復すとともに、刊行時の雰囲気を伝える挿絵を多数収録して完全復刻!(粗筋紹介より引用)
 2021年8月、刊行。

 

 『仮面城』は仰々しいタイトルと筋立てではあるが、当時の小学生向けということもあってか、内容はあっさり目。銀仮面の正体もわかりやすいもの(小学生でも気づくだろう、これは)になっている。
 『金色の魔術師』は連載が同じ雑誌ということもあってだろうが、『大迷宮』に引き続き立花滋少年が登場し、活躍する。金田一耕助は関西で静養中ということもあり、滋たちからの手紙を基に色々とアドバイスを渡す形となっている。赤星博士が宝石狂で、信者から集めた宝石を隠しているとか、七つの礼拝堂とか、似たような設定が出てくるのは仕方がない。乱歩がよく使った消失トリックを始めとし、乱歩の少年物で出てくるトリックが多いのは参考にしていたのかもしれない。滋少年の活躍が目立つ分、等々力警部や警察があまりにも間抜けすぎるのは、少年物として仕方のないことだが、もうちょっと何とかならないものだろうか。
 『迷宮の扉』は少年物にしては珍しい本格推理作品。典型的なフーダニット作品であるのだが、金田一耕助により論理的に意外な犯人が暴かれる展開がなく駆け足になっているのが残念。もう少しうまく書けば、大人物にも使える設定だっただろう。ただ不思議なことに、一番最初の事件、すなわちの使いの者が殺された動機が全く不明。最後の真相が明かされても、殺される理由が全く浮かばない。
 私の勝手な想像だが、元々の竜神館、海神館という設定をうまく生かす展開が思いつかず、作者が慌てて舞台を東京の双玉荘に変えたのではないだろうか。証拠として残されたコバルトの髪も何だったのだろうという結果になっているし、そもそも事件の犯人は彼を殺す理由が全くない。
 最初から双玉荘を舞台にしていれば、本格推理作品としてもっと膨らますことができただろう。母屋を通らなければ反対側に行くことができず、普段は鍵がかかっているという不可能犯罪が可能な現場である。非常にもったいない、残念な作品であった。
 「灯台島の怪」は立花滋少年と金田一耕助が活躍する短編。立花滋はこの後も生かすことができたのだろうが、やはり金田一耕助が少年物と肌が合わないのか、今回で退場するのはちょっと残念。
 「黄金の花びら」は犯人当てだが、ちょっとアンフェア。大事なことを隠しているし、現実的に難しい。それでも正解者が非常に多かったとのことだが、まあ予想できるかな、すぐに。

 

 当時の横溝正史の角川文庫作品は全て読んでいるので、「黄金の花びら」以外は再読。大まかな筋は覚えているが、山村正夫はどのようにリライトしたかは、ほとんど覚えていない。読んでいて面白いことは面白いのだが、やはり少年物だよな、という筋立てがあるのは仕方がない。ただ『迷宮の扉』は当時結構好きな作品だったのだが、今回読むと結構粗が見えてきて残念。まあ、金田一耕助の活躍を読めるだけでいいっか。