平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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R・オースティン・フリーマン『ダーブレイの秘密』(ハヤカワ・ポケット・ミステリ340)

 スティーヴン・グレイは、初秋の陽当りのいいハイゲイトのウッド・レーンを、陽気な気分で歩いていた。一方のポケットには研究資料にする微生物の採集管を、一方のポケットにはスケッチブックを携えての遠足だった。『墓底の森』に踏み入って、間もなく、彼は一人の美しい女が、何かを探しているように、草むらの中をすかして見ているのに出会った。彼は、遠慮して女の横を素通りしながらも、心を誘かれずにはいられなかった。だが! それから間もなく、彼は、森の沼地に殺された男の死体を見つけたのだった!
 本書の著者オースティン・フリーマンはイギリスが生んだ最大の探偵小説作家の一人である。本職が医者だけに彼の探偵小説は法医学に関してきわめて科学的であり、いわゆる科学的探偵小説の創設者である。彼の想像したソーンダイク博士はドイルのホームズに匹敵する名探偵として、古くから探偵小説ファンの親しみある人物である。本書はつとに出版を望まれながら、今日まで訳出の機会を得なかった。本邦初訳の古典的名篇である。(粗筋紹介より引用)
 1926年発表。1957年7月、邦訳刊行。

 

 ソーンダイク博士の長編物としては有名な作品(というか、ポケミスでこれしかないからか)だが、うーん、被害者である彫刻家のジュリアス・ダーブレイの娘・マリオンと、被害者を発見した医師の若者・スティーヴン・グレイの恋物語という印象のほうが強いな。ソーンダイク博士は第二章からあっさりと出てくるし、的確なアドバイスを与えてはくれるのだろうけれど、印象は弱い。
 ページ数が少ないことも影響しているかもしれないけれど、ミステリ味は薄い。まあちょっとした恋愛サスペンスだね。ホームズの最大のライバルという位置付けにあると思うのだが、今一つ人気が爆発しなかったのはこういう長編があるせいかも。それとも逆に、ロマンスがあった方が売れたのかな。