平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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志水辰夫『帰りなん、いざ』(新潮文庫)

帰りなん、いざ (新潮文庫)

帰りなん、いざ (新潮文庫)

  • 作者:志水 辰夫
  • 発売日: 2008/06/30
  • メディア: 文庫
 

 トンネルを抜けると緑濃い山を背景に美しい里が現れた。浅茅が原だ。わたしは民家を借り、しばらくここで暮らすことにしたのだった。よそ者への警戒か、多くの視線を肌で感じる。その日、有力者たる氏家礼次郎、そして娘の紀美子と出会ったことで、眼前に新たな道が開いた。歳月を黒々と宿す廃鉱。木々を吹き抜ける滅びの風。わたしは、静かに胸を焦がす恋があることを知った――。(粗筋紹介より引用)
 1990年4月、講談社より単行本刊行。1993年7月、講談社文庫化。2008年6月、新潮文庫化。

 

 表題の「帰りなん、いざ」は陶淵明「帰去来辞」から来ている。
 冒険小説の旗手だったころから大人の恋愛ものに移行しているころの作品。そのせいか、中年の恋愛を取り扱った、どことなくセンチメンタルな雰囲気が流れている。どう考えても怪しいだろ、と言わんばかりの主人公。それでも受け入れるところは受け入れようとする村の人々。ゆっくりとした時の流れで、少しずつ変わっていく主人公。現実に戻し、本来の目的を果たさせようとする集団。読みごたえはあるのだが、どちらかと言えば昔のほうが好きかな。
 最後はちょっとドタバタしすぎかな。もうちょっと落ち着きがあってもよかったと思う。楽しく読めたけれどね。