平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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フィリップ・カー『偽りの街』(新潮文庫)

偽りの街 (新潮文庫)

偽りの街 (新潮文庫)

1936年、ベルリン。オリンピックを間近に控えながらも、ナチ党の独裁に屈し、ユダヤ人への迫害が始まったこの街で、失踪人探しを仕事にするグンターに、鉄鋼王ジクスから調査の依頼が舞い込んだ。ジクスの一人娘とその夫が殺され、高価な首飾りが盗まれたという。グンターはナチ党政府高官だった娘婿の身辺を洗い始めるが……。破局の予感に震える街を舞台に書く傑作ハードボイルド。(粗筋紹介より引用)

1989年、イギリスで出版。1992年、翻訳発表。



東京で働いていたころ、「深夜プラス1」にサイン本が置いてあったので、なんとなく購入したままになっていた本。サイン本といっても、名前が書いてあるだけの、ものすごく素っ気ないものだが(苦笑)。

一人称主人公、タフな私立探偵など、典型的なハードボイルドものだが、舞台がナチス台頭中のベルリンというだけで世界はガラッと一転する。正直言って法律や正義など通用しない時代でどのようにしてハードボイルドの世界を作り上げることができるのだろうと思いながら読んでいたが、予想通りナチスのメンツとやり合いながらもしっかりと正統派ハードボイルドになっていることに素直に感動。相手がゲーリングだろうと、皮肉な口調が全く変わらないのはお見事といってよい。よくぞ、この世界観を作りあげた。

当時のドイツの状況なども描写されているし、ゲシュタポの理不尽さ、恐怖などもしっかり描かれている。まあ、権力による圧倒的な暴力が苦手なので、読んでいてちょっと苦労したが。結末がどことなく霞がかかったようになっているのは、シリーズものを最初から想定していたのだろうか。

本書は作者のデビュー作であり、以後書かれた「ベルリン三部作」の第一作。続きは気になるけれど、読むのはしんどそう。