平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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伊吹亜門『刀と傘 明治京洛推理帖』(東京創元社 ミステリ・フロンティア)

刀と傘 (明治京洛推理帖) (ミステリ・フロンティア)

刀と傘 (明治京洛推理帖) (ミステリ・フロンティア)

 

  慶応三年、新政府と旧幕府の対立に揺れる幕末の京都で、若き尾張藩士・鹿野師光は一人の男と邂逅する。名は江藤新平――後に初代司法卿となり、近代日本の司法制度の礎を築く人物である。二人の前には、時代の転換点ゆえに起きる事件が次々に待ち受ける。維新志士の怪死、密室状況で発見される刺殺体、処刑直前に毒殺された囚人――動乱期の陰で生まれた不可解な謎から論理の糸が手繰り寄せる、名もなき人々の悲哀を活写した五つの物語。破格の評価をもって迎えられた第十二回ミステリーズ! 新人賞受賞作「監獄舎の殺人」に連なる時代本格推理、堂々登場。(粗筋紹介より引用)
 「佐賀から来た男」「弾正台切腹事件」「監獄舎の殺人」「桜」「そして、佐賀の乱」の五編を収録。第十二回ミステリーズ! 新人賞受賞作、『ミステリーズ』掲載作品に書き下ろし二編を加え、2018年11月、刊行。2019年、第19回本格ミステリ大賞受賞。

 

 明治維新を舞台に、若き尾張藩士・鹿野師光と江藤新平が謎解きを行う五編を収録。最も単純な謎解きというわけでなく、幕末から明治にかけての時代背景を色濃く投影した作品に仕上がっているところが素晴らしい。フーダニットだけでなく、その時代ならではのフワイダニットが見事。本格ミステリでこれだけ時代色を濃く絡めた作品なんて珍しい。特に「監獄舎の殺人」は傑作。最初は「死刑囚パズル」の維新版かと思っていたら、見事な背負い投げを食らった。「桜」なんて、倒叙ものだよ。時代小説で正面から倒叙ものに向き合うというのもすごい。
 登場人物の描写も、時代背景の描写も素晴らしい。江藤新平なんて個人的には征韓論で先走った人物程度の認識しかなかったが、本書を読むとすごく興味が湧いてくる。鹿野師光も実在するのかと思って、調べちゃいましたよ。さすがに実在しなかったけれど。
 こういうのを読むと、明治維新ももう少し調べてみたくなりますね。個人的には政権が徳川から薩長土肥に変わった程度のイメージしか持っていなかったけれど(その後の近代化はまた別の話)、もっとドロドロした話、ミステリの題材にもなりそうな話があるんだろうな、なんて思ってしまう。とにかく、見事な作品集でした。