平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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榊林銘『あと十五秒で死ぬ』(東京創元社 ミステリ・フロンティア)

  死神から与えられた余命十五秒をどう使えば、私は自分を撃った犯人を告発し、かつ反撃ができるのか? 一風変わった被害者と犯人の攻防を描く、第12回ミステリーズ! 新人賞佳作入選「十五秒」。犯人当てドラマの最終回、目を離していたラスト十五秒で登場人物が急死した。一体何が起こったのか? 姉からクイズ形式で挑まれた弟の推理を描く「このあと衝撃の結末が」。〈十五秒後に死ぬ〉というトリッキーな状況で起きる四つの事件の真相を、あなたは見破れるか? 期待の新鋭が贈る、デビュー作品集。(粗筋紹介より引用)
 2021年1月、刊行。

 

 主人公の目の前に死神が現れた。自分はピストルで撃たれ、あと十五秒で死ぬところだという。いわゆる走馬灯の時間をサービスするという死神にお願いし、主人公は犯人への反撃を始める。わずか十五秒で何ができるのか。2015年、第12回ミステリーズ! 新人賞佳作入選作「十五秒」。考える時間はあるが、動ける時間はわずか十五秒。被害者が犯人へ反撃するというアイディアは面白い。『死神くん』の方向に行かなくてよかった。ワンアイディアと言ってしまえばそれまでだが、タイムリミテッドサスペンスの究極の形の一つだろう。
 姉が大ファンである連続テレビドラマの最終回を一緒に見ていた中学生の弟。弟はエンディング寸前でテレビから離れて席を立ったが、用を済ませて帰ってくると重要登場人物がなぜか死んでいた。テレビから離れたわずか十五秒で、どんなドラマがあったのか。答えを教えない姉の挑発に乗った弟は、過去のストーリーから推理を始める。「このあと衝撃の結末が」。ドラマ自体がタイムスリップを扱った推理ものになっているせいか、推理クイズみたいな落ちの作品。まあ、確かにテレビでこれをやれば、twitterなどで話題にはなるだろうと思う。
 母と二人暮らしの娘が毎日見る、車の助手席で目覚め、母が何かを伝えた後に大型トラックが突っ込んでくる悪夢。この十五秒の悪夢の正体は何か。そして少しずつ二人の暮らしが変わっていく。書下ろしの「不眠症」。前二作とは全くムードの違う、幻想的な作品。十五秒の設定としては一番弱いが、その趣向を考えない短編として読むと、これは結構いいぞ。
 赤兎島の住民は、首と胴体を切り離されても、十五秒以内にくっつければ死なない特異体質を持っている。自分の胴体ではなく、他人の胴体でも大丈夫。そして大祭の翌日、一人の若者の焼け焦げた首無し死体が発見される。島に住む三人の高校一年生の一人と思われたが、事件後に三人とも目撃された証言が現れる。そして時は戻り、被害者と思われた三人の一人による、事件の状況が語られる。書下ろしの「首が取れても死なない僕らの首無殺人事件」。すごいバカバカしい設定ではあるが、そういうものだと思って読むと、結構ブラックユーモア的な面白さがある。最後に一気呵成の犯人当てが待ち受けており、意外な本格推理ものになりつつ、最後のドタバタ劇が笑える。

 「あと十五秒で死ぬ」という設定を用いた四作の短編集。多分最初の作品を書いた時はそんなことを考えていなかったと思うけれど、そんな設定を、しかも作風を変えて四作そろえるというのはなかなかの腕。ちょいと設定の説明がだらだらしているな、というところはあるけれど、結末に至る流れは面白い。「首が取れても死なない僕らの首無殺人事件」のバカバカしさは、特殊設定状況下本格ミステリ短編として語られてもいいものと思うし、「不眠症」のムードもなかなか。ただこの作者、次作を書くのが非常に難しそう。毎回毎回この傾向の短編集を書くわけにはいかないだろうし。
 面白かったけれど、なんとなく一発屋の雰囲気が漂う作品集。次作があることを希望したい。